
──そういった庁内の状況は、結論まで1か月もかかったのか、とのちに言われる原因にもなりました。どのような対処を決めたのか、具体的に聞かせてください。
垣見 当時、捜査一課に広域捜査指導官室があり、10人ぐらいのチームでした。室長は稲葉(一次)君ですが、その稲葉室長に「チームはオウムを専従とするように」と指示しました。
──8月上旬に集まった一連の情報をふまえた結論というのはオウム専従班の結成だったわけですね。指示はいつですか。
9月6日です。なお、その頃の部内会議で、菅沼警備局長は宗教団体に関した指示をしたようで、一部新聞に、「統一教会に注意しなさい」という話になって載ったこともありました。菅沼さんは部内会議で、別に統一教会に絞って言ったわけではなかったと思います。けれども対外的には、「統一教会の話を聞いたので、宗教団体としてちゃんと動きを掌握しないといけない」という趣旨の話をしたことになっています。
──記者が解釈したんですね。
警備局長の指示を聞いた警備局幹部の受け止め方なのか、記者の解釈なのかわかりませんが、菅沼さんは、オウム教団と統一教会を念頭において指示されたのではと推測していました。
──9月時点だとメディアも、オウムとサリンについての関連性にはたどり着いていないはずで、不正確に把握して、そういう記事になったのかもしれませんね。
警察内部を含めて、当時の一般的認識からすると、問題がある団体というと、当時は統一教会のほうに関心が向かったのでしょう。その頃、統一教会が相当活発に、さまざまな活動をしていましたから。
──逆にいうと、警備局内の会議においても、オウムという名前を明確に出していない可能性があるのですか。
名前までは出していなかったと思います。刑事局としても、その段階では、松本サリン事件へのオウム教団の関与について疑いはありましたが、確証を得るまでには至っていませんでしたから。オウム教団とサリンに繋がりがある、との情報が漏れれば、メディア等の受け止め方が、ガラッと変わってしまうこともありえます。オウム教団の事件への関与について、「まだ全く確証を得ていない段階なのに、情報だけが広がるのはまずい」という考えもありました。それで松本サリン事件とオウム教団の情報は、扱い要注意ということにしたのです。刑事局においてもそういった段階ですから、菅沼さんが明確に「オウム教団」と言うのは考えにくいところです。