明洞にある「ノグリ」ラーメンショップ。 日本でも認知度の高い「辛ラーメン」の会社が入店した「ホンパブ飯ラーメン」ショップだ。 ここは外国人観光客やビジネスマン客がほとんどで、好きなラーメンに好みのトッピングを入れて直接ラーメンを作れる(撮影/ノ·ミンハ)

 最近増えてきた、こうした「ひとり専用」の飲食店は、韓国語では「ホンパブ」と呼ばれる。「ホン(ひとり)」と「パブ(ごはん)」を組み合わせた言葉だ。日本ではひとりで外食することは一般的だが、韓国では従来、「ホンパブ」は特別な理由がないかぎり避けられる傾向があった。周囲から、「社交性がない」「ケチ」「同僚から孤立している」といった否定的なイメージで見られる感覚が根強くあったからだ。

 しかし、今ではホンパブは韓国の新しいライフスタイルとして受け入れられつつある。明洞の焼肉店だけでなく、カップラーメン専門店、しゃぶしゃぶ店、和風ラーメン店、定食店など、ひとり客向けの店が次々と登場している。

若者が引っ張る「ホンパブ文化」

 この「ホンパブ文化」を牽引しているのは主に若年~中年層だ。明洞のひとり焼き肉店では30~40代の会社員が多いという。その後、筆者が訪れたカップラーメン専門店やしゃぶしゃぶ店でも、20~40代の客で満席だった。こうした店では、若者の好みに合わせた味や、かわいらしいメニューを登場させるなどして若者のホンパプ文化に合わせようとしている。

 焼肉店の店員に「なぜ若年層の利用が多いのか」を聞くと、こんな言葉が返ってきた。

「同行者を気にせず、自分の好きなものをすぐに食べられるし、支払い額の割り振りの心配もないからです。割り勘の計算をする必要もない。特に大学生や会社員に人気があります」

最近、韓国のSNSでは「ホンパブ」がトレンドとして浮上している。 ひとりしゃぶしゃぶ、プルコギ、鍋、定食など全国的に人気.ホンパブレストランが増えている。(写真=ネイバーのキャプチャー)

 ホンパブの流行は、一般的に経済状況が悪化すると広がる傾向がある。しかし今の韓国では景気低迷に加え、政治的な要因もホンパブ文化を後押ししているという見方がある。

 尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の非常戒厳の宣言以降、韓国は大統領の弾劾をめぐる政局に突入し、市民の間でも政治対立が激化している。食事の場では政治の話題が出やすく、意見が対立すると、激高した言葉が飛び交うこともある。そのため、自分の政治的立場をさらけ出さずにすむ「ひとり飯」を選ぶ人が増えているというのだ。

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ホンパブ文化は現代韓国社会の縮図