「はい、そうです。私のことをそんなに思ってくれてありがとうございます。いちのすけさん」
(あ、オレの名前がひらがなになった)いや……べつに思ってるというか……(なりゆき上、そんな展開になっちゃったんだけど)……うん。まあ。そうなんだよ、君のことが心配でならないよ。
「私のことなら心配いりませんよ、いちのすけさ、いや、イッちゃん」
「あー、やっぱりビールって美味いな」
(急に気安くなったな)……へー、それは強がりじゃないのかい? ノンアル?
「そんなことないって、イッチー」
(「イッチー」なんて誰にも言われたことないし……)
「われわれノンアルコールビールは『ビールの味、でもアルコールは“無し”』、そういうレールに乗って生きてきましたからなんの葛藤もないよね。ビールさんがあってのわれわれ。だってビールさんがいなけりゃわれわれが生まれてくることもなかったんだから。そりゃビールさんより美味いって言われるのが目標だけど、それはもうわれわれのゴールなんだよね。われわれにとっての『ゴール』というものは目指すモノであって到達するものではないの。いっときわれわれで凌いでもらって、再びビールさんを飲んだときに『あー、やっぱりビールって美味いな』って思っていただければ本望かな。アルコールを飲めなくなったときにみなさんの心をビールさんから離れないように繋ぎ留めておくのがわれわれの仕事。アルコールを摂取できなくなったとき、ビールさんのあの芳醇な香りと味わいとのどごしをわれわれで少しでも感じていただければこんな幸せなことはないってはなしでさ。でもさ、そんなに一の字がオレたちのことを考えてくれて、こんな原稿にまで綴ってくれてよう、ホントありがとな、一の字!!!」