だからビール会社はせめて少しでも美味しくなるようにノンアルの味の向上を競っている。そのせいか「最近のノンアルって美味しいよね」なんて会話をよく聞くし、CMの中の人たちもことさら声を大にして喧伝しているではないか。

 「食事にあうね!」「ゴクゴクいけるね!」「のどごしサイコーだね!」「ここまで来たか、ノンアル!」「こんなノンアルが欲しかった!」「これが本当にノンアルなのか!?」「ノンアルがあればもうなにもいらない!」「これビールじゃないの? うそー! ノンアル!?」「ノーノンアル! ノーライフ!」「ノンアルコールビールは永久に不滅です!」なんてね。

 でも私はわかっている。本当はちゃんとしたビールが飲みたいくせに、みんなそんなことを言っている。顔に書いてある。「オレはビールのCMに出たいんだ」って。

 そんなのあんまりだ。それじゃノンアルが可哀想だ。ノンアルはそれに薄々気づいてるはず。ノンアルはそんなに都合のいいヤツじゃないはず。ノンアルだっていつかみんなを見返してやりたい、と思ってるはず! このままじゃノンアルがどうにかなっちゃうんじゃないかって、すごく心配!! もっとみんなノンアルに優しくなるべき!!!

この声はノンアルかい?

 「ノンアルください」って言った人に「え? 車?」とか「独演会近いの?」とか「ダイエット?」とか「痛風?」とか聞かないでくれ。それを聞いたノンアルがどれだけ傷ついてるかわかってんのかよっ!?

「同情なんかいらないですよ、一之輔師匠」

 あれ? 今、そんな声が私のあたまの上におりてきた。

「大丈夫、一之輔さん。われわれはそれを宿命だと理解してますから」

 え? ひょっとして、この声はノンアルかい? 君がオレに語りかけてるのかい?

次のページ
「ホントありがとな、一の字!!!」