
石丸氏に会ったら「ビビッときた」
「選挙の神様」として名をあげたのが、石丸氏を躍進させた東京都知事選だった。藤川さんはこう話していた。
「ドトールコーヒーの創業者である鳥羽博道氏から、『素晴らしい若者だ。だが、東京には何のツテも人脈もないそうだ。あんたしかいない』と電話があり、石丸氏の選挙を頼まれた」
だが、その時点で選挙まで1カ月ほど。難しいとは思いつつ、藤川さんが石丸氏に会ったところ、感じるものがあったという。
「そう期待しないで会ったら、ビビッとくるというかな、こいつはなんかやりそうだと手ごたえあったんや」
石丸氏の選対に入った藤川さんは、「小池氏には届かないが、蓮舫氏より上、2位に押し上げてみせる」と豪語した。だが、その時点で、人気・知名度とも小池氏にひけをとらない蓮舫氏より、石丸氏が上にくると予想していた人はいなかった。
私も、「藤川さん、大風呂敷広げすぎや」と笑っていた。
ところが藤川さんは、石丸氏が得意とするネット、SNSを徹底的に駆使して支持を伸ばし、蓮舫氏を逆転。宣言通り、石丸氏を2位に押し上げた。
石丸氏は当選していない。あくまで2位だ。それでも、石丸氏とともに、軍師だった藤川さんの存在がにわかにクローズアップされ、「選挙の神様」とも呼ばれるようになった。
その後は、昨年9月の自民党総裁選で高市早苗氏を陰で支え、決選投票で石破茂氏に敗れたとはいえ、1回目投票で1位の票数を得る躍進を見せた。
昨年10月の衆院選でも、藤川さんの門を叩いた候補者が数多くいた。
選挙期間中、藤川さんは佐賀1区の立憲民主党候補、原口一博議員の応援に駆け付けていた。偶然、私も車で現地に行っていたので、2時間ほど原口氏の街宣車を追いかけながら、昔話に花を咲かせた。
藤川さんは田中派議員の秘書時代を振り返り、こんな話をしていた。
「政治の世界に入ろうと、最初、先生(議員)のところに訪ねていった。すると、現金1億円(以前は3億円とも5億円とも語っていた)が山積みされ、先生から『3万円ずつ封筒に入れろ』と命じられ、朝まで寝ずにひたすら詰めた。『これが政治なんかい、おかしいがな』と思った。選挙が始まると、それを地元の人に配っていく。先生より、秘書になったばかりのオレを見て、人が寄ってくる。3万円入りの封筒を配りまくっとったからな。そんな時代もあったんや。今やったら完全につかまっとるわ」
40年以上も前の田中派の金権政治の一端だ。
だからだろうか。藤川さんの訃報を聞いた大阪市議時代の同僚は、こんな話をした。
「昔の仲間で年をとっても一番活躍していたのが、藤川氏だ。よく逮捕もされず、ここまで頑張ったよ」