紀伊國屋書店新宿本店2階フロアの「BOOK SALON」で談笑する高井さんと今村さん。ここは、イベントスペースとしてだけでなく、趣向を凝らしたブックフェアを随時開催している(撮影:写真映像部・松永卓也)
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 全国の書店は20年間で半減。出版不況が叫ばれるなか、書店最大手の紀伊國屋書店は利益を伸ばしている。本屋の経営について、作家で書店経営も行う今村翔吾さんと、同書店の高井昌史会長が語り合った。AERA 2025年3月10日号より。

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 対談は、紀伊國屋書店新宿本店の2階フロアから始まった。

「明るくなったでしょう」と高井さん。1964年に竣工した紀伊國屋ビルディングは、ル・コルビュジエに師事したモダニズム建築の旗手、前川國男の名建築でもある。同店は建て替えではなく耐震改修によっておなじみのビルが残った。

高井:ここにある100万冊もの本を返品したら、取次(出版業界の問屋)も大変だし、出版社にもご迷惑をおかけすることになる。

 紀伊國屋ビルディングは歴史的建造物ということもあり、それを壊していいのかという問題もある。一方で、新しいビルに建て替えて、1階正面もテナントを入れて家賃収入を得た方がいいという“悪魔のささやき”もあった。しかし、それではいけない。本屋を続けたまま工事をするためにはどうしようかと。

今村:100万冊って言ったら、上代だけで15億円ぐらいを戻すってことですから。15億円もの商品を引き取る取次も大変でしょうが、それが出版社に戻ってくるとなると鉄砲水が来るようなものです。

高井:返品を最小限に抑えるために、工事はワンフロアごとに行って、営業は続けました。ただ、実は紀伊國屋書店は4年連続増収増益で、過去最高売り上げと利益を更新しています。当社の業績はいたって好調ですので、書店や出版業界が不況、不況と言われると正直困ります。不況な業界だと思われると、優秀な人たちが集まらなくなって、業界にとっていいことはひとつもない。

今村:僕は一般書店の「きのしたブックセンター」(大阪)と「佐賀之書店」(佐賀)、昨年からはシェア書店「ほんまる」(東京・神保町)の経営をやっています。「きのしたブックセンター」を引き継ぐという話があり、僕の事務所は、中小企業ですがまだ余裕があったので、今やらなかったら挑戦する機会もないだろうし、まずはやってみようと。大変なことってやる前は3個くらいしか浮かばなかったのに、いまは100個ぐらいになりましたけど(笑)。(作家、本屋という)両側から出版の構造を学ぶ機会に恵まれて、知見がすごく深まりました。

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在庫管理や販売管理、書店業はシステムが大切