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ユニフォームを脱がずに30年近く指導
久保コーチとはどんな人物なのか。現役時代は近鉄、阪神で先発やリリーフとして活躍。1997年に現役引退すると、その後、一度もユニフォームを脱ぐことなく、投手コーチやバッテリーコーチを務め続けている。近鉄、阪神、ソフトバンクのほか、韓国プロ野球、社会人野球のクラブチームと指導歴は28年に及ぶ。巨人のコーチに就任したのが23年だった。
近鉄の関係者はこう証言する。
「久保さんと巡り合ったことで、素質を開花させた投手は多い。その代表格が日米通算176セーブをマークした大塚晶文、日米通算170勝を挙げた岩隈久志です。岩隈の時はフォーム固めからつきっきりで見ていました。コミュニケーションを大事にして、自分のやり方を押し付けることはしない。『原理原則』という言葉を大事にしていましたね。原理原則から外れなければ、自然にフォームが出来上がっていく。野球の指導者というより、学校の先生の話を聞いている感覚でした。野球以外のたとえ話を出したりして興味を惹きつけるアプローチをするので面白かったですよ」
阪神では現監督の藤川球児が伸び悩んでいたときにリリーバーとしての適性を見出だし、能見篤史、安藤優也、福原忍を一本立ちさせた。ソフトバンクでは高橋純平、大竹耕太郎(現阪神)のフォーム改造に着手。大竹はその後、阪神で2年連続2ケタ勝利をマークし、先発陣の核になっている。くすぶっていた投手たちが久保コーチの指導で次々に輝きを取り戻すことから、つけられた異名が「魔改造」。阪神OBはこう語る。
「選手の動きをウォーミングアップから細かくチェックしているんですよ。だから異変にすぐ気づく。あとはコミュニケーション能力ですよね。頭ごなしに言うのではなく、こちらの悩みを聞いてくれる。打たれる時があっても『今の投げ方は悪くないから大丈夫』と結果だけで判断せず、その理由を理路整然と話すので納得できる。あと、すごく勉強熱心なんです。色々な投球理論を常に調べているので、知識量がすごい。巨人のコーチに就任した時、阪神のOB仲間と『久保さんが最大の補強になるやろ』と話していましたが、その通りでしたね」