少年時代の清川肇社長(一番奥)(写真/本人提供)

 自宅は1階が事務所、2階が居宅。建物はいまも残り、後ろに工場があり、その先は川の堤防まで田んぼ。自宅から歩いて約10分の市立和田小学校へ通った。市立成和中学校、県立足羽高校から福井大学工学部へと進み、得意な科目が化学だったので工業化学科を選ぶ。

 この間、父に一度も「会社を継げ」と言われたことはない。だが、母や社員には言われて、「そうなるのだろうな」と思いながら過ごしていた。

 大学院で、高島先生と共同で開発した独自技術に、水をはじく撥水メッキがある。先生はフッ素にも詳しくて、メッキする表面にハスの葉と同じように細かな突起をつくって、溶液に水をはじくフッ素樹脂の粉を浮かべてメッキし、粉を突起にまぶしていくと開発できた。アイロンの底の板に使うと静電気が起きないし、ビニールがくっついてもすぐにはがせる。軽くて、3分の1くらいの力でアイロンをかけることができた。

新妻と展示会へいき新技術を披露して営業活動はゼロ

 こういう研究開発は、何かに役に立つシーズ(種)を生む。そのシーズが、企業などが抱える課題が持つニーズ(解決策)と適合すると、新たな製品やサービスが生まれる。撥水メッキも、どう使われるかは分からずに開発したが、使いたい企業があれば商談は進む。

 だから、開発した技術や試作品は、技術展示会へ出す。撥水メッキは東京・晴海で国際技術展があった際、結婚したばかりの妻と2人で展示した。みた客は「何だ、水をはじく金属の膜があるぞ」と不思議がり、何に使うといいかを考えてくれた。

 いま社員が360人いるが、営業部隊はゼロ。技術展へ参加し、新しい技術を披露して「これをうちの製品の生産に使いたい」と思ってくれる企業との出会いを待つ。この手法で、半導体など電子部品のメッキは、年間1500億個に近づいている。

 2010年1月に社長になってから、ずっと技術部長を兼務している。先々、社長の座を譲っても、これだけは続けたい。誰もやっていないことをやるのは醍醐味で、「死ぬまでやりたい」と言い切るから、福井大学で流れ始めた「自分で考え、自分で装置をつくる」という『源流』からの流れは、まだまだ勢いを増しそうだ。(ジャーナリスト・街風隆雄)

AERA 2025年3月3日号

▼▼▼AERA最新号はこちら▼▼▼