マスメディアに求められるのは、地道に取材を重ねて、記事や映像にしていくこと。民主主義の基盤として、信頼されるメディアであり続けることが必要だ(写真:Getty Images)

 そもそも、マスメディアの役割は何か。遠藤さんは言う。

「マスメディアに求められるのは、世論という空気に流されないこと。空気に違和感があれば自ら主体的に考え、丁寧に誠実に報道する。そして、それに対して反論があればしっかりと答えていくことです」

 マスメディアが痩せ細れば、権力監視が行き届かず、民主主義が歪められる。米国では、経営難から地域に根差した報道機関が消滅する「ニュース砂漠」が拡大し、陰謀論がはびこるなど社会問題となっている。

 報道ベンチャー「JX通信社」代表の米重克洋さんは、SNS時代におけるマスメディアの役割は二つあるという。

「まず、裏付けのある事実を社会に供給することです」

共通言語を取り戻す

 SNSによってデマやフェイクニュースが流され、共通言語がない時代になり、社会が分断されてしまった。分断をなくすためには、裏付けのある事実を報道して共通言語を取り戻すことが大切、という。

「個々のマスメディアの力は弱まっていますが、組織ジャーナリズムの仕組みは残っています。これがインフルエンサーと呼ばれる人たちとの違い。組織ジャーナリズムによって、裏付けのある情報を発信し続けることが、信頼を獲得する必要条件です」

 もう一つは、双方向のコミュニケーションで説明責任を果たすことだと米重さん。

「マスメディアは、基本的に情報を一方的に出すだけです。そのため、なぜあのことは報道しないのか、偏向報道ではないか、報道しない自由を行使しているなど批判を受けます。しかし、ネットの話題を報じないのは、報道に守るべき倫理基準や価値判断があるからです」

 1月、三菱UFJ銀行の元行員が貸金庫から十数億円の金品を盗み取り逮捕された。逮捕前、巨額窃盗事件にもかかわらず、元行員の実名は報道されなかった。SNSでは、「大口CMスポンサーへの忖度だ」「マスメディアは都合の悪いことを隠している」といった声が広がった。だが、マスメディアが実名を報道しなかったのは捜査当局からの正式な発表がある前で、誤報による名誉毀損のリスクを避ける報道機関の倫理基準に従ったからだ。

 米重さんは、こうした背景を、記者がXやYouTubeなどで発信することで、誤解をある程度防ぐことができると話す。

「つまり、双方向のネット的文法に合わせた情報発信をすることで、信頼を獲得することができます」

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SNSでの存在感カギ