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批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。
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第2次トランプ政権が誕生して1カ月弱。連日の新政策に世界が翻弄されている。
米国には大統領令という制度がある。議会の承認を得る必要がないが法的効力をもつ。トランプはこの大統領令を駆使している。2月13日現在で60の大統領令が発され、世界保健機関や気候変動をめぐるパリ協定からの離脱、国際刑事裁判所への制裁、カナダやメキシコへの高関税導入(のち猶予)、さらには多様性推進政策の撤回や地名変更まで、さまざまな重大決定がおそろしい速度で発せられている。
外交では露骨な自国第一主義が目立つ。グリーンランド購入やパナマ運河返還に続き、3日にはウクライナ東部のレアアース採掘権に関心を示した。軍事支援の見返りに地下資源を寄越せと要求するのでは民主主義の大義もなにもあったものではないが、もはや本音を隠す気もないのだろう。
内政ではマスク氏率いる政府効率化省(DOGE)の動きが目立つ。DOGEは連邦政府の大胆な改革を求め、まずはUSAID(米国際開発局)の実質的閉鎖を決めた。ワシントンの本部ビルは封鎖され、1万人以上の職員が休職となった。USAIDの23年度の国際援助実績は6兆円と言われる。そんな巨大組織がわずか1カ月で解体されるというのは常識では考えられないが、SNSの陰謀論が後押しした。人道支援への影響は甚大だが、支持者は喝采を送っている。
今の米国で進行しているのは要はSNSを活用した新種の独裁である。批判するのはたやすい。しかしトランプ政権はそんな批判を全く恐れていない。そしてその姿勢こそが支持されている。それだけ米国市民の絶望は深いとも言える。くだけた表現を使えば、今の米国は怒りの果てに「ガン極まって」しまっているのだ。私たちはこれからそんな国と付き合っていかねばならない。
日本はいままで以上に賢くあらねばならない。米国が民主主義や国際協調の指針を示す時代は終わったと考えるべきだ。性善説も通用しない。米国の顔色だけ見、無意味な泥沼に引き摺り込まれることだけは避けねばならない。
※AERA 2025年2月24日号
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