Emmanuel Todd/1951年、フランス生まれ。人口学者、家族人類学者。家族構成や人口動態などのデータで社会を分析し、ソ連崩壊などを予見。主な著書に『西洋の敗北 日本と世界に何が起きるのか』など

 というのも、アメリカという国が国際社会でやっていくためには戦争こそが必須の手段の一つだと考えている国になってしまったからです。平和の実現は困難だと考えている。トランプがこうなってしまったアメリカを実際変えられるなどとは到底思えません。

 ロシア・ウクライナ問題でもアメリカは、停戦は難しいと考えていますが、ロシアとの平和的な解決に向かうというのは実はとても簡単なことです。ロシアの人口は高齢化していて、そういう意味でも戦争を維持していくことには無理があります。そもそもロシアは合理的な考え方も持っている国ですし、ロシア人も結局は私たち西洋の人々と根本的には変わりません。何より、ロシアの人も私たちと同じく戦争を忌み嫌っているはずなんです。NATO(北大西洋条約機構)の東方拡大などいろいろなファクターによってロシアは戦争を始めてしまったわけですが、ロシアだって実際は平和を願っているはずです。

 ただ一つ言えるのは、トランプ自身は戦争を嫌っているということです。これは称賛に値する点ではないかと思います。戦争を嫌うというのはそれだけで素晴らしいことだと思います。ただし、トランプは勢力をあがめる人間です。勢力関係を重視する人間であり、アメリカの覇権を重要視する人間です。だから結局戦争に巻き込まれてしまうのです。

日本はどうすべきか

──この世界の中で生き残っていくために日本はどうすべきですか。

 すべての深刻な問題は今ヨーロッパにあります。だからアメリカもヨーロッパに集中しているわけです。今後アジアで戦争を始めるための手段はトランプにはないでしょう。だからアジアですぐに戦争が始まるということはないと考えます。日本は今まで通りに、鳴りを潜めて目立たなくしていることが大事です。

 もちろんアジアには中国という火種はありますが、少子化で人口減少が続き、人口動態的に非常に重要な弱点を抱えている国だということを忘れてはいけません。それに、中国はアメリカという脅威も考慮しなければならないので、中国側から見てもそう簡単には戦争にはならないでしょう。

 ですから日本については、すでに何度も言ってきた通り、核兵器を保有し、アメリカとの通常軍事演習にはあまり参加しないことが大事です。

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いま起きているのは西洋世界の終焉です