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ヨーロッパからの視点
──フランスからは、アメリカはどのように見えているのでしょうか。
ベルリンの壁崩壊後のEUが拡大していった時代のころのヨーロッパの人々は、自分たちに対してポジティブなイメージを持っていました。普遍的な価値や人権、平和の思想や繁栄などから支えられたポジティブなイメージでした。しかし、今すべてのヨーロッパの指導者層は、世界におけるヨーロッパというものに対して恥というような感情も抱かざるを得なくなってきています。なぜならば、ロシアはヨーロッパがアメリカに従属する姿を見て、ヨーロッパは独立を失ったと見下しています。また、「その他の世界」(今はグローバルマジョリティーとも言われますが)は、西洋のことを、地政学的勢力としてはもう見ていないからです。
そしてもっと悪いことは、アメリカがヨーロッパを見下しているということです。トランプ以上に、これらのことに貢献しているのが、イーロン・マスクです。アメリカのネオコン地政学者のロバート・ケーガンなどもヨーロッパを見下した発言をしていますが、イーロン・マスクはさらにイギリスの首相をばかにしたり、ドイツの極右を支持したりするなど、ヨーロッパを軽蔑して見ていることが明らかです。もはやヨーロッパにおいて名誉という概念は死んだようなものですが、今後はヨーロッパの威厳を再復活させることができるのかというところが問題になってくるのではないでしょうか。
トランプの演説やマスクの行動に対して、ヨーロッパ人が自分たちの力を取り戻すことができていないのが現状です。例えば、スペースXやテスラなどを見ていると、アメリカは非常にダイナミックな国で好き勝手ができるというように、ヨーロッパでは思われています。しかし、ヨーロッパ人も分かっていないのは、確かにロケットはすごいですが、実はボーイングの収益を見ると、スペースXの10倍はあるのです。そのボーイングが今崩壊しつつある──私たちがこれから目の当たりにすることになるのは、自動車産業の崩壊の後の航空産業の崩壊でしょう。しかしそれは、メディアなどの幻想によって巧妙に隠されているというのが現状です。
(構成/編集部・三島恵美子、通訳・大野舞)
※AERA 2025年2月17日号より抜粋
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