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「米国を第一」に掲げるトランプ氏は、大統領に再就任した直後から大統領令を頻発。高関税を取引材料にし、相手国や市場を振り回している。今後、世界はどうなるのか。エマニュエル・トッド氏の独占インタビューを2週にわたって掲載する。AERA 2025年2月17日号より。
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──議会に諮らず、大統領令を頻発させるなど民主主義の根幹が揺らいでいます。今後はどうなるのでしょう。
問題は民主主義ではないと思っています。その理由は、かなり前からアメリカに民主主義というものはなくなっていて、あるのは寡頭制(オリガルヒー)だと考えているからです。アメリカは新しい封建制に向かっているのかとか、新しい自由軍国主義に向かっているのかというように、今後のことについて考えるのも興味深いと思いますが、今日注目すべきは、アメリカが同盟国やアメリカに従属しているような国々を裏切り始めているというところです。
巨大な勢力として台頭したアメリカが今、弱者をどんどん脅かしているのです。パナマやカナダ、グリーンランド、ヨーロッパでいえばデンマーク……アメリカにとって非常に重要で必要不可欠な国です。アメリカに従属している国を脅すというのは、一体これはどう解釈したらいいか、合理的な解釈は難しいわけです。
このようなアメリカの態度に対して、ウクライナとロシアの戦争の最初から完全にアメリカに従属してきた、ヨーロッパの国々の反応も変わりつつあります。もしかするとそう遠くない未来に、ヨーロッパの人々の間に「結局私たちの敵は本当にロシアなのか」といった疑問が生まれることもあるかもしれません。
そして、「今まではずっと私たちの同盟国だったアメリカが、私たちの脅威になるのではないか」そんな見方が生まれるのではないかと思っています。
さらに想像できるのは、これは決してSFの話ではなく、「ロシアこそがアメリカから私たちを守ってくれる国なのではないか」と考える人たちが出てくる可能性です。もちろんこのような考えは、すぐにではなく何年も後になるかもしれないですけれども。こんな危険な意見を述べるのは初めてですし、このような話を打ち明けられるのは友人である日本の方に対してだけですよ(笑)。
もうひとつ、アメリカの民主主義について付け加えたいことは、クーデターの条件とはなんだろうということです。昔は警察や軍をコントロール下に置くことでクーデターが起きたわけですが、新たなコミュニケーションツール、たとえばXなどのツールをのっとることでクーデターが起きる可能性もあるのではないかということです。