様々な意見、多様な意見が目に見えるようになったのはいいことだが共通言語がなくなった。かつては、一つの社会の中で「常識」が存在し共有されていた。そして特定の事柄やイデオロギーに対しては、異論反論はあったが、一応のまとまりを持っていた。しかし、「一億総メディアの時代」になり多数のクラスターが発生し、一つ一つが「世論」を形成したため、常識が消滅し共通言語がなくなった。それがいいとか悪いとかいうのは、いまの時点では明確に答えを出すことはできないと言う。

「ただ一つ言えるのは、不確実なこと、予期せぬことが起き得ることです」

 例えば、ヨーロッパでは移民が自分たちの生活や安全を脅かすとして外国人排斥を主張する人が増えている。そうした人たちが集まると、小さかったクラスターが大きくなり、極右政党の力が伸びていく。だが、共通言語がないので常識を共有できない。仮に選挙で極右政党が議席を取った場合、どうなるかわからない、という。

「かつてナチスも、選挙で勝って議席を得て政界に進出してきました。民主主義のプロセスを踏んでいましたが、それと同じです」(米重さん)

偽情報が当落を左右

 SNSにはフェイク情報も飛び交う。兵庫県知事選で敗れた稲村氏を巡っては、Xで「稲村氏が当選したら外国人参政権を推進する」という、偽情報が広がった。昨年の米大統領選の期間中、トランプ氏は「(中西部オハイオ州)スプリングフィールドでは移民が地元住人の犬やなどのペットを食べている」と主張し、SNSで拡散した。

 国際大学GLOCOM准教授の山口さんは、「民主主義はフェイク情報に対して脆弱」と言う。なぜならば、人口の5〜10%程度の人々の意見を変えれば、選挙結果が大きく変わる可能性があるからだ。そして、SNSの功罪について、こう語る。

「功について言えば、今まで政治に関心がなかった層でも、政治に関心を抱いて投票に行くようになりました。裾野を広げる効果は高く、先の兵庫県知事選では、前回と比較して投票率が約15ポイント上昇しました」

 一方、「罪」の部分として、「SNSは社会の分断を加速させるリスクがある」としてこう警鐘を鳴らす。

「本来、選挙は民主主義のプロセスの一部にしか過ぎず、選挙が終われば勝者と敗者を超え同じ議論のテーブルにつき、議論を重ね合意形成を図ることが求められます。しかし、極端な言説や対立構図が強調された選挙戦では、支持者同士の対立が激化し選挙後も分断が解消されないことがあります。これは、民主主義にとって大きな危機です」

(編集部・野村昌二)

AERA 2025年2月17日号

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