兵庫県知事選の最終日を迎え、大勢の聴衆を前に演説する斎藤元彦氏(右上)=2024年11月16日
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 今や多くの人にとって欠かせないツールとなったSNS。だが、SNSは「諸刃の剣」だ。民主主義を逆行させ、社会の分断を加速させる。SNSの功罪とは何か──。「SNSと民主主義」について、連載で考える。AERA2025年2月17日号より。

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 神戸の街は熱気に包まれた。

「兵庫県をよりよくしていくうねりを一緒につくりあげましょう!」

 2024年11月16日夜、兵庫県神戸市中央区。集まった群衆に呼びかけたのは、斎藤元彦氏(47)だった。

「がんばれ!」

 街頭を埋め尽くした聴衆のあちこちから、声が上がった。

2位に大差で圧勝

 パワハラ疑惑などで兵庫県議会による全会一致の不信任決議を受けて失職し、出直し選挙に臨んだ斎藤氏。圧倒的に不利だとみられていたが、終わってみれば、2位の稲村和美氏に14万票近い大差をつけ圧勝した。

 斎藤氏が勝因に挙げたのが「SNS」だった。翌17日、再選を確実にした斎藤氏は神戸市内の事務所で当選祝いの花束を受け取ると、硬かった表情をほころばせ言った。

「SNSを通じた選挙戦を、ご支援をいただきながら広げさせていただいた」

 インターネットの普及から約30年。交流の場として発展してきたSNSは、今や多くの人にとって欠かせないツールとなり、選挙にも大きな影響を及ぼす存在となっている。2月2日に投開票された東京都千代田区の区長選でも、立候補した公認会計士の佐藤沙織里氏(35)がSNSを駆使した選挙戦を繰り広げ次点になり、再選した現職に肉薄した。選挙期間中、佐藤氏自身も約20本のYouTube動画をアップ。再生回数は合計200万回を超え、他の候補者より飛び抜けて多かった。

 しかしなぜ、SNSが選挙結果に影響するのか。何が人々を駆り立てるのか。

「敵対的メディア認知の存在がある」

 こう指摘するのは、報道ベンチャー「JX通信社」代表の米重克洋さん。「敵対的メディア認知」とは、中立的な報道をしているメディアに対してもその報道は偏向していると認知する心理的バイアスのこと。SNSではその傾向がより顕著に見られると言う。

「兵庫県知事選ではテレビや新聞などマスメディアは、選挙期間前も期間中も斎藤氏のパワハラ疑惑をさかんに報道しました。一方で、SNS上では斎藤氏を擁護する声が広がり、『斎藤さんは既得権益と闘う候補だ』『マスメディアも既得権益を守ろうとしている』といった主張が多く投稿されるようになりました」

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