3月末までに第三者委員会の調査結果を出すとしているフジテレビ。日枝氏の処遇にも注目が集まる(写真:AERA dot.編集部・小山 歩)

「日枝会長の指示で」

 その翌月。ライブドア子会社のライブドアマーケティング元社長の小宮徳明のマンションにフジの社会部記者が訪ねてきた。「僕たちライブドアのあら探しをしているんです。何か知りませんか」。追い返しても別の記者を含め2度、3度とやってくる。「僕たちは日枝会長と宮内正喜常務の指示で動いているんです」「村上光一社長は『ライブドアと提携を進めよう』という考えだから外されています」。彼らはそう言っていた。

 小宮は彼らに決して言質を与えなかったが、その年の12月6日、東京地検特捜部の斎藤隆博検事から「ライブドアの件で聞きたいことがある」と電話がかかってきた。以来、翌年の2006年1月10日ごろまで20回ほどの事情聴取を受けている。

 クリスマスのころ、フジの記者に都心のホテルに呼び出された。いたのは司法クラブに属する3人の記者だった。「僕たち小宮さんのことを検察に紹介しました。小宮さんは逮捕されることはないだろうし、きっと検察に協力するんじゃないかと思ったんです」。なんだよ、フジは俺を検察に差し出したのか──。そう不快に思った。

交際費使いたい放題

 以来、検事の事情聴取が終わると、フジの記者が検察庁のそばで待つようになった。「この件は、交際費を使いたい放題です」と記者。そこで、ハイヤーに乗せられ、食事に連れていかれた。検察にどんなことを聞かれたのか、質問攻めにあった。「その翌朝には日枝さんに報告していたようです」と小宮は振り返る。強制捜査が始まる数日前にはフジの記者から「入る容疑が決まりました。偽計と風説の流布です。早く自宅から逃げて下さい」と電話が入った。

 検察に持ち込み、事前に準備しただけに、あのときのフジは検察の動きをスクープし続け、他の放送局を圧倒。「監査法人からデータセンターまでガサ入れ先をあらかじめ撮っていましたね」。小宮はそう振り返る。

 かくして日枝はライブドアに440億円を出資して握手しておきながら、それが毀損しかねないことも予見しながら部下を使って彼らを滅亡に追い込んだ。2006年1月16日に東京地検特捜部の強制捜査が始まると、ライブドア株は暴落。フジはライブドア株をあっさり見切って、3月にはUSENに95億円で売却した。これによって345億円の差損が発生したものの、すかさずライブドアに損害賠償請求訴訟を起こし、そのうちの310億円を取り戻した。つまり差し引き35億円の損失が発生したとはいえ、堀江たちを有罪に持ち込むことに成功した。堀江たちの指南役だった村上ファンド主宰者、村上世彰もそのあおりをくらって逮捕され、ついに一世を風靡したヒルズ族は一網打尽に終わった。

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鉄壁の統制に揺らぎ?