
ヨルダン川西岸地区の村に住むパレスチナ人青年バーセル・アドラーはイスラエル軍による非道な占領を撮影し発信していた。そんな彼にイスラエル人ジャーナリストのユヴァル・アブラハームが協力を申し出る──。敵同士なはずの二人が2023年10月までの現地を記録したドキュメンタリー「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない」。共同監督のバーセル・アドラーさん、ユヴァル・アブラハームさんに本作の見どころを聞いた。
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バーセル:私が生まれ育ったヨルダン川西岸のマサーフェル・ヤッタはイスラエル軍の占領が進む地域です。彼らは我々住民の家や井戸を破壊し、強制的に追い出している。私は10代のころからその様子をカメラに収めてきました。SNSで発信をしていた2019年にユヴァルがやってきて協力を申し出てくれました。パレスチナ人とイスラエル人という壁や混乱は私たちには一切ありませんでした。
ユヴァル:私たちは人権抑圧や暴力への嫌悪など価値観が一緒で、すぐに友達になりました。西岸地区とガザ地区にはバーセルたちを含む約500万人のパレスチナ人が暮らし、多くがイスラエルの占領下にあります。彼らは選挙権もなく自由に国を出ることもできない。そんな不平等はあってはならない。しかし残念ながらイスラエル社会でそう考える人間は少数派です。最近も国会が「パレスチナを国として認めない」と可決し120人中反対はわずか8人でした。

バーセル:私はいまも村に住んでいますが2023年10月7日のハマスによる攻撃、その後のガザ攻撃で状況はより悪化しています。
ユヴァル:いまイスラエルでは私たちのように政府を批判すると「裏切り者」のレッテルを貼られます。実際、脅迫や暴力にも直面しました。世界的にもイスラエルの行いへの批判が以前より少なくなっていると感じます。パレスチナの人々が自由を得ることができなければ、我々イスラエル人にとっても安全ではないのに。この問題は内側からだけでは解決できず国際的なアプローチが必要です。
バーセル:まずはこの映画で僕の村で起きていることを世界の人に知ってもらいたい。ショックを受けるだけでなく、何かのかたちで僕らをサポートする行動へと、つなげてもらえればと願います。
(取材/文・中村千晶)
※AERA 2025年2月10日号