クロちゃんは彼女の髪の色や服装に至るまで自分の好みを押し付けてきたため、対等に見てもらえないと感じていた。理想の彼女を演じ続けてきて、ずっと本音を言えなかった。デートをしていても、SNSにアップするための写真を撮られ、SNSのネタにされていると感じた。クロちゃんは「リチが好き」と言っているが、本当は好きと言っている自分が好きなだけだ。
リチは交際した2年の間に溜め込んできたすべての不満をぶちまけた。彼女が「最後に言いたいことある?」と水を向けると、クロちゃんは大げさに「俺、別れてないから!」と声を張り上げた。それに対してリチは冷静に言った。
「だから、そういうテレビ用のやつじゃなくて、本当の言葉が聞きたい」
そう言われたクロちゃんは、泣きながら後悔の言葉を口にした。「自分勝手に、彼女だからってネタにしてごめんなさい」と頭を下げた。最終的には別れを受け入れて、立ち去るリチを見送ることになった。クロちゃんとリチの恋物語をエンタメとして楽しんでいた視聴者にとっては衝撃の結末だった。
クロちゃんは裏表のない人間
クロちゃんが『水曜日のダウンタウン』に出るたびに大きな話題になる理由は、彼がフィクションとノンフィクションの間を漂うように生きている人間だからだ。
身近な人からの証言によると、クロちゃんは裏表のない人間である。テレビカメラが回っているときも、そうでないときも、ほとんど態度を変えず、自分のスタイルを貫いているのだという。そんな彼の人間としての属性が、リアルな感情を求めるドキュメントバラエティー的な企画にこの上ないほどはまっている。
お笑い文化が発達して、芸人の技術レベルが極限まで上がっている今、視聴者がテレビに出る芸人たちにある種の「作為」を感じてしまうのは仕方がないことだ。でも、クロちゃんのようになりふり構わず本能のままに突っ走る人間は、予測不能の言動でアナーキーな笑いを生み出していく。
『水曜日のダウンタウン』の大ヒット企画「名探偵津田」でも、ダイアンの津田篤宏が感情をむき出しにしてしぶしぶドラマのストーリーに向き合う姿がレジェンド級の爆笑を巻き起こしていた。ドッキリスターに必要な条件は、作りものの世界で堂々と生の感情をさらけ出すことなのだ。(お笑い評論家・ラリー遠田)