NHK大阪局放送局に勤務していた頃の武内陶子さん(本人提供)
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 2025年が始まりました。年女の私。しかも4月生まれで新年度になった途端に還暦がやってきちゃうと思うと、なんだかちょっと焦っちゃう。それまでにちゃんとした大人になれるかしら……(笑)。さすがに言い訳できない年のような気がして。でも、まだまだ上にはたくさん先輩方がいらっしゃるから、ま、いいかーといつもの調子。三つ子の魂百までとはよく言ったもんですね。いや、日々進化して参りますよ!

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 さて、2025年は阪神・淡路大震災から30年の節目の年です。

 先日、古巣NHKの「100分de名著」という番組で、1月の名著である安克昌著『心の傷を癒すということ』のナレーションを担当しました。かつて私も司会を務めていたこの番組は、「一度は読みたいと思いながらも、手に取ることをためらってしまったり、途中で挫折してしまったりした古今東西の“名著”、難解な1冊の名著を、25分×4回、つまり100分で読み解いていこう」という内容。司会を担当しているときもとても面白いと思っていましたが、番組から離れてますます大好きな番組になりました。

 今回の名著をお書きになった安さんは精神科医。2000年に39歳の若さでお亡くなりになるのですが、自らも被災しながら、阪神・淡路大震災の現場で被災者たちの心に寄り添い、精神科医の立場から克明な記録を取り続けました。まだこの頃は「心のケア」という概念も確立しておらず、被災者の心に寄り添いながら、被災者の心に何が起こっているのか克明に記録することで災害を見つめた方です。

 阪神・淡路大震災が起きた1995年は「ボランティア元年」と呼ばれましたが、「心のケア元年」でもありました。

 私たちアナウンサーは、通常ナレーションを担当するときには事前にしっかりと下読み(練習)をしていきます。もちろん読み方のチェックや本番で間違わないようにするためでもありますが、私にとって一番大切なことは、途中で何を伝えているのかわからなくなって迷子になったり、感情のコントロールができなくなったりしないようにするためなのです。今回も、もちろん下読みをしていったわけですが、実は途中何度も胸がいっぱいになり、込み上げてくる感情で言葉に詰まってしまい、収録を止めてしまいました。自分でも驚きました。私は直接被災したわけではなく「伝える側」として経験した未曽有の震災でしたが、30年たってもなお、私の中でもまだまったく終わっていなかったことに気づいたのです。

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アナウンサー4年目の「葛藤」