しかも、吉村は自分から必殺技を出すこともない。流れに沿ってコメントで笑いを取ることはあっても、決定打を放つことはない。番組の性質や場の状況に合わせて、必要とされる役目をさり気なくこなしていく。
「表舞台にいる裏方」
いわば、吉村は「表舞台にいる裏方」である。本来なら裏方がやるような仕事を表にいながら率先して引き受けてくれる。番組の作り手やMCから見ると、これほど頼もしい人はいない。
私自身も一度だけテレビ番組の収録で吉村氏と共演したことがある。Eテレのややお堅い雰囲気の番組だったのだが、彼が積極的に前に出てMCのサポートをして、話題を広げていくことで、バラエティ番組としてのパッケージが自然にできていった。もうずいぶん前のことになるが、当時から吉村氏の空間構築能力には非凡なものがあった。
吉村はまだ無名だった若手時代に、脇を鳴らすという宴会芸のようなパフォーマンスで話題になったことがある。ネタも大喜利も得意ではなかった彼は、ただその身一つで必死に笑いを取ろうと思い、半裸になって脇を鳴らしていた。絶対にどうにかしなければいけない状況でどうにかする、という彼の信念が具現化されたような芸だった。
バラエティ番組で最も重要なのは楽しそうな雰囲気を作ることだ。それがベースにあるからこそ、出演者がのびのびとパフォーマンスができて、番組が盛り上がっていく。「楽しそう」から「楽しい」が生まれる。吉村はそんな土台作りのプロフェッショナルだ。「破天荒」を売りにする彼が本当に得意としているのは、派手さのない地味な職人芸なのだ。(お笑い評論家・ラリー遠田)