まじめな顔で話していても、どこか優しげ(撮影・上田泰世/朝日新聞出版写真映像部)

 取材当日、横川さんは紺のブレザー姿だった。すらりとした体形は、自己管理にたけたエリートビジネスパーソンのそれだ。

「2023年まで、フルマラソンに年1回出ていました。今でも休日には1日10キロ走ってます。スマホの体重管理アプリも使ってコントロールしていますね」

 1986年に三菱信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)に入社し、2021年に三菱UFJアセットマネジメント(以下、三菱UFJアセット)の社長となった。

「新入社員1年目は年金運用部で伝票書きです。2年目からポジションを少し持ち、3年目は数千億円(の運用)を任されました」

100万円当たり192円

 運用の現場仕事が長かった横川さんは最近、投資信託業界の「変化」を実感している。15年ほど前は運用会社も投資信託自体も、今よりずっと影が薄かった。

「販売会社の銀行や証券会社を回って『この投資信託は私たちが運用しています』と言うと、『えっ、横川さんのところが。知らなかった』と返されることが少なくありませんでした。投資家も、投資信託を持っていても名前は覚えない人が多かった気がします。

今では『オルカンが欲しい』と指名買いしてもらえるようになりました」

 投資家がオルカンの運用や管理のコストとして支払う信託報酬は0.05775%以内(年率、税込み)。100万円当たり年577円。

 このうち、三菱UFJアセットがもらえるのは192円以下(オルカンの信託報酬のうち、三菱UFJアセットの取り分は税込み最大0.01925%で純資産総額が増えるほど減る)。

 薄利多売の極みだ。一昔前ならもっと儲かったのに……と思わないか。横川さんは苦笑しながら答える。

「海外ETF(上場投資信託)の運用コストは10年前から低下していました。

日本でも投資信託の低コスト化は進むと予想し、『運用コストで一番安い水準の投資信託を目指す』と言い続けてきました」

「eMAXIS Slim」の二匹目のどじょう狙い(追い抜けるとは思っていないだろう)で、他の運用会社も低コストの投資信託を続々設定してきた。

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赤字の投資信託が…