ちなみに少し前のことだが、パイプカットについて調べる機会があった。なんとパイプカットは、1920年代にヨーロッパで大流行したことがあるのだ。片側精管結紮というもので、一方だけの精管を結紮するので避妊にはならず、目的も「男性の若返り」だった。精管を結紮することで精子の渋滞が起き、そのことで男性ホルモンが大量に発生し、男性が活力をみなぎらせ、若返る……という今となっては全く何の根拠もない手術だったのだが、当時大変に流行っていた。20世紀の最も偉大な詩人と名高いノーベル賞作家ウィリアム・バトラー・イェイツなどは、この手術を受けて「第二の青春」という言葉を広めたほどだ。他にも同時代のラフマニノフやフロイトやアインシュタインも片側精管結紮を受けたという噂などもあるほど、一般人から有名人までがこぞってこの手術を受けたという。

 100年前の世界、男性がテストステロンを増強させるために精管の片方を切る手術が大流行したことを知り、いつの時代も変わらないのだなぁと遠い目になる。で、100年後の日本では避妊のための精管結紮は……一周回って「ふざけるな!」と叫ばれる。男たちの「男にパイプカットを強要するなど男性へのDVだ!」という声は、「女へのDVを許さない!」と女たちが怒ってきた声のコダマのようである。女たちの怒りの形がそのまま男たちの手に渡り、そして不毛な炎上が今日も……。

 今年初の「おんなの話はありがたい」。女と男の戦国時代さながらの現代、性の話を今年も向き合っていきたいと思います。よろしくお願いします。

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