元朝日新聞記者 稲垣えみ子
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 元朝日新聞記者でアフロヘアーがトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】稲垣さんが頂いた、かわいい「ワケありりんご」はこちら

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 亡き母は千葉の山の中に樹木葬されているんだが、毎年2度出かける墓参りを昨秋は見送った。父が足を捻挫し、回復が思わしくないのである。姉と私だけで行くことも考えたが父が悲しそうな顔をした。そりゃそうよね。

 ってことで墓苑から送られてくるニュースレターを読み、現地に思いを馳せている。先日は環境活動に関心のある企業や学生らと協力して池の補修や竹炭づくりなどしたそうだ。「苑内と周辺の自然や生きものたちが、もっと美しくゆたかで元気になるように」との思いが共有できたとあった。皆様ありがとうございます。

 実はこのレターを楽しみにしているのは毎回、「お客様物語」と題して納骨した人のインタビューが掲載されているからである。この墓苑を知ったきっかけは様々だが、それ以外のところでは、ここに決めた理由も今の思いも同じであることに毎回驚く。

形のいびつな「ワケありりんご」を頂いた。半分に切ったらどうにも可愛くて思わず撮る(写真/本人提供)

「土に還る、森をつくるというコンセプトが気に入った」「一度壊された森を再生させることに微力ながら協力できたら」「実際に歩いてみると鳥がさえずり、昆虫もいる、とても気持ち良い場所」「野草が生えているのも、本当に森にしようとしているんだなというのがわかって」「花や実は見られる期間は決まっていますが、ここは昆虫やカエルの卵など季節ごとに見られ、それをスタッフの方が丁寧に教えてくださりいつ行っても楽しめます」──以上は今回登場した方のインタビューの抜粋だが、いやもう全く我ら家族の思いと同じである。

 もちろん、そういう価値観を持った人がここを選んでいるのだと言われればそうなんだろうが、一方でこうも思うのだ。

 結局、人が望んでいるゴールとはこういうことなんじゃないか。どんな形であれ、生まれてきた自然の懐に還り、後世に良き置き土産を残して去っていくこと。それが人の望みうる最高のことなんじゃないか。ゴールはシンプル。ならばそこに向かって生きていけば良いのだと、毎回ハッと我に返るのである。

AERA 2025年1月13日号

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