幸い連れ去られることはなく、母親が警察に届けを出したが、男は捕まえられなかった。後に宮崎が逮捕されたときに、自分の写真を所有していたことを警察に伝えられたという。
あの時代、被害にあった女の子たちが今、40代になっている。
そして今も、もしかしたら自分の娘たちが同じような目にあうのではないかと恐怖している。娘がいなかったとしても、この類いの事件が今も起き続けている事実に、苦しんでいる。
宮崎が逮捕されてから35年経った。宮崎勤の名前を知らない世代も増えてきている。それでも、小さな女の子に向ける暴力性、残酷な欲望は、今も変わらず存在する。いやむしろ、もしかしたら、少女へ向ける男たちの欲望は、もっとあからさまになっていやしないだろうか、などと思ったりもする。
昭和から平成になったあの年、宮崎勤の事件が衝撃だったのは、「ロリコン」の危険性、犯罪性を社会に強烈に知らしめたからではなかったかと思う。少なくとも、私にとってはそうだった。
あの当時、私が「ロリコン」とか「ペドフィリア(小児性愛)」という言葉を知っていたのかは覚えていない。でも、私自身も、小学生のとき、大人の男性に性被害にあっている。あとで聞いた話だが、母も子どもの頃にあっている。女友だちの多くが、幼い頃に親族男性に性的に触られたり、路上で知らない男からペニスを突然見せられたり、学校教師や塾講師に授業中に身体を触られたりするなどの被害にあっている。知らない男に「写真を撮らせて」と言われるような体験をした女の子だって少なくない。これはまさに、宮崎がやっていたことでもあった。
この国を生きる女の子たちは、警察に訴えるまでもないと黙ってしまいがちな、これが性暴力なのかどうか被害を受けた本人ですらわからないレベルの性的嫌がらせを多々浴びながら生き抜いている。