
極度の不安を解消してくれたのは
「コロナ禍での極端な言説を信じてしまう素地は、母にはあった気がします。年をとるにつれ、時代についていけなくなって世の中への不安が増幅し、さらに極端な言説に引っ張られやすくなったのかもしれません」
そして、極度の不安にかられ、やっとそれを解消してくれる「真実」と出会った。家族を守りたいと、その真実を訴え続けた、ある意味で無垢な母。
そんな母に対し、ぺんたんさんは「悪手」を打った。「説得」という名の全否定だ。
「バックファイア効果」という現象がある。人は自分の信念や考えに反する情報を提示されたときに、それを否定して、考えをより強固にしてしまう傾向のことだ。
寄り添うことができていたら
「母はとんでもない情報に飛びつきながら、想像を絶する不安を解消しようとしていたのでしょう。なのに、当時の私は情報のファクトチェックをして、母を正面から全否定した。母を不安な世界に戻そうとする行動をとってしまいました」(ぺんたんさん)
「確かにコロナは怖いよね」
「その話が本当かはわからないけど、ちょっとでも安心できるなら、気にしてみてもいいかもね」
そんな声かけをして、不安に寄り添うことができていたら、結果は違ったかもしれない。
近くにいて、テレビや新聞の情報をかみ砕いて教えてあげていたら、どうだっただろうか。
できることはすべてやったが…
そんな悔いにも似た「もしも」が、今のぺんたんさんの心にはある。
「当時の私にできることはすべてやったと思いますし、自分を責める気持ちはありません。ただ、いまの私が得た知識が当時あったら、そういう接し方ができたのかな、とも思います。もし大切な人が陰謀論にハマりかけたら、否定はしないで、何が不安なのかを知ろうとしてあげてほしいと思いますね」(ぺんたんさん)
時間は戻らない。
ぺんたんさんの母は、今も陰謀論にどっぷりつかったままだ。