親が認知症になって自分の知っている親ではなくなった、などの「あいまいな喪失」によるグリーフを抱えて、個別相談する人もいる(写真:グリーフサポートせたがや提供)

 配偶者との死別により、いままで2人で行っていたことを1人ですることになる。配偶者は唯一無二の話せる間柄であるだけに、生活が大きく変わると大西さん。

「ご遺族は仕事には、気力を振り絞って行きます。でも、特に配偶者を亡くした人は、スーパーマーケットに行くことがつらくなります」

 土日のスーパーでは、夫婦が仲むつまじくカートを押す姿が目に入ってしまう。あまりのつらさに、知人を見かけると隠れてしまう人もいる。

栄養不足になることも

 家族での食事が楽しかった人は、一人で食べても仕方なく感じて、栄養不足になることも。職場では元気を取り戻したように見えても、私生活はなかなか元に戻らない。さらに、大事な人の死というショッキングな出来事により、心血管疾患の死亡率が上昇するとされる。

 だから初診のカウンセリングは慎重に行う。大西さんと臨床心理士の石田真弓さんと二人で診る。投薬が必要か、採血すべきか、他の科と連携すべきか、判断すべきことは多い。

「精神状態だけで判断するわけではなく、体の状態も、その人を取り巻く状況も診ます」

 だが、診察室で大西さんらが助言をするかというと、少し違う。

「『聞いてくれて、ありがとうございます』と言われても、『アドバイスをありがとうございます』と言われることはありません」(大西さん)

 男性(68)は卵巣がんで娘(享年38)を亡くした。結婚式で娘と歩いた教会のバージンロード。7年後に、同じ教会で娘の棺をかつぐことになった。男性から話を聞いた大西さんは、しゃべれず、聞くことしかできなかったという。

「でも、誠実な関心を持って聞いたことが良かったのだと思います。このとき、アドバイスをしなかったから、この後も外来に通ってくれたのだと思います」

 アドバイスをしたのは、記憶では一度だけ。白血病で娘を亡くした女性(44)がとても寒い日に「娘が寒くないか心配です」と話したときだ。娘の死を受け入れつつも、娘とのつながりを求めているようだった。

「湯たんぽを買ってあげたらどうですか」と話したら、女性の表情が明るくなった。女性は湯たんぽにお湯を入れて、女性と夫の間に置いて安心して寝ることができた。

「遺族は混乱のさなかにあり、思考の糸がもつれている状態です」(大西さん)

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