おがた・けんじ/1958年、大分県生まれ。同志社大学文学部卒業。88年、朝日新聞社入社。警視庁キャップ5年、警察・事件担当編集委員10年、前橋総局長、組織暴力専門記者などを歴任。2021年、退社。22年4月、短期大学保育学科入学、24年3月、卒業。保育士資格、幼稚園教諭免許、こども音楽療育士資格を取得。手に着用しているのは、短大の課題で制作した「犬のおまわりさん」の軍手人形。おまわりさんは拳銃と手錠も装着している(撮影/写真映像部・佐藤創紀)
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 もっと子どもを守るには──。考えた末、短大保育学科に入学した事件記者。その日々を綴った著書が12月23日に刊行される。AERA2024年12月23日号より。

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 誘拐、暴力団抗争、そして地下鉄サリン事件……緒方健二さんは朝日新聞の警視庁キャップや編集委員として約40年、退社まで最前線を駆け抜けてきた伝説の事件記者だ。そんな緒方さんは2021年の退社後、子どもを守るための専門的な知識と技能を学びたいと、短期大学の保育学科に入学した。

「数え切れないほど取材した事件の中には、子どもが犠牲になる痛ましいものも少なくありませんでした。取材を重ね、こんなことは二度と起こってはならないという思いを込め記事を書き続けてきましたが、もっと根源的に子どもを守るにはと考えたとき、子どもに直接関わる保育や幼児教育の場、その当事者となって学ぶべきではないか。そうでないと子どもを守るということを大言する資格はないのではないかと思ったのです」

 63歳で緒方さんは短期大学の保育学科の新入生となった。当然同級生のほとんどが18、19歳の女性である。

女子学生とお遊戯も

「短大の授業では、お遊戯などで女子学生の手指や身体の一部に触れなければならないこともあります。そうせざるを得ない場面では、必ず事前に『身体に触れてもよろしゅうございますか』と許可を得たうえでやっておりました」

 そうした日々が、丁寧でありながらキレがあり、大好きだという映画「仁義なき戦い」シリーズの台詞回しも彷彿とさせるような文体で綴られているのが、著書『事件記者、保育士になる』(CCCメディアハウス)だ。

「新聞記事を書く時もデスクとして若い衆の原稿を見る時にも、含みを持たせるようなことよりも事実をどう伝えるのか、というような指導もしてまいりましたんでね。今回、私(わたくし)ごときが上木したこの著書はエッセイに分類されるようなんですけれども、エッセイというと、女優の高峰秀子さんの一連のものでありますとか、古くは内田百けん(もんがまえに月)さんのものとか、そういうものが好きでいつも読んでおりました。もちろんそういう達人の先達には到底及ばないまでも、事実を書く際にどういうふうに表現したらいいのかというようなことについては、到底、到底できておりませんけれども、心がけたつもりです」と、大変丁寧に、口上のようになめらかに、ら行は巻き舌で教えてくれた。かくして保育関連書の枠に収まらないエンタメ性の高いエッセイが仕上がった。

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事件記者の魂は健在