ドラマで出てくるなっちゃんのイラスト手帳そっくりの手帳を作って公開するファン(「小紅書」より)

団地にはドロドロした人間関係があった

「団地のふたり」を見たというジャーナリストの周来友氏は、ドラマが中国人の心をつかんだ理由は2つあると述べる。

「これまで中国では、展開の早い刺激的なドラマや映画が好まれていましたが、中国経済が低迷し始めた頃から、田舎の素朴なスローライフを描写するような動画がブームになりました。都会の早い生活リズムに疲れ、競争に敗れた多くの人たちは自分たちの祖父母の生活様式に憧れを抱くようになったのでしょう。『団地のふたり』は、そんな最近の視聴者の嗜好(しこう)に見事にマッチしたのだと思います。昔は一生懸命働けば豊かになれたのに、現在の中国では頑張っても結果が得られない社会になりました。長期化する不況で将来が見いだせないなか、とくに老後に不安を抱えている70后(1970年代生まれ)を中心に『こんな生き方もあったのか』と共感を呼んでいるようです」

 さらに周氏は「団地」という舞台設定にも惹かれた中国の視聴者が多いのではと推測する。

「中国の都市部では1980年以降、集合住宅や学校、病院などが一体となった『社区』というコミュニティーが発展し、全国で作られました。社区では住民同士が助け合い、支え合って生きてく一方、うわさ話や他人の動向がすぐ知れ渡るドロドロした人間関係がありました。こうした点は、ドラマでまさに強調されていたところで、幼い頃に社区で生まれ育った世代にハマったのでしょう。また、中国人は漠然と『日本人は冷たい』という印象を持っているのですが、昔の中国の社区のように濃密な人間関係もあったんだと驚きを覚えた視聴者も少なくなかったようです」

 中国の視聴者をも魅了した「団地のふたり」。放送終了後も名作は海を越えて語り継がれている。

(山重慶子)

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