「記憶の戦争」上映会事務局(株)SUMOMO https://www.sumomo-inc.com/kiokunosensou 「教育と愛国」 https://www.mbs.jp/kyoiku-aikoku/ 写真=ハンギョレ21提供
「記憶の戦争」上映会事務局(株)SUMOMO https://www.sumomo-inc.com/kiokunosensou 「教育と愛国」 https://www.mbs.jp/kyoiku-aikoku/ 写真=ハンギョレ21提供
この記事の写真をすべて見る

 2月7日、韓国の司法が画期的な判決を下した。ベトナム戦争当時、米国の求めに応じて派兵されていた韓国軍が行った民間人虐殺に対して、この戦争犯罪について賠償せよ、という一審判決を出したのである。賠償請求を起こしていたのは、戦争当時、ベトナム、ポンニ村に暮らしていたグエン・ティ・タンさん。1968年2月、韓国軍海兵第2旅団に家族を殺され、自身も銃撃されたとして、2020年4月に訴訟を起こしていた。これに対しソウル中央地裁は「被告大韓民国は原告のティ・タンさんに3千万100ウォンとこれに対する遅延損害金を支払え」と判決したのである。

 ここでティ・タンさんの名前に見覚えのある映画ファンも多いのではないだろうか。まさにこの韓国軍の戦争犯罪を追った作品「記憶の戦争」に登場するタンおばさんである。同作のイギル・ボラ監督は昨年、歴史教育など学問に対する政治の介入を可視化させた「教育と愛国」の斉加尚代監督との本誌における対談の中でこんなことを言っている。

「ベトナム戦争であった数多くの虐殺には証拠がありません。なぜなら、軍が隠滅し、人も殺されてしまいました。様々な理由で証拠を示せないし、法的にも原告にとっては不利な状況が揃っています。しかし、虐殺の事実は存在しますね。それを無いと言ってよいのかという問いができる分野が芸術だと思っています」

 ボラ監督は祖父が猛虎部隊としてベトナム戦争に派兵され、そのときに稼いだ外貨で自身は大学に行けたと言う。自らの原罪に向き合うかたちで、ベトナムに行きタンおばさんに向けてカメラを回したが、公開時は退役軍人たちによる猛烈な妨害に遭った。

 しかし、今、芸術の分野だけではなく韓国の司法もまた転機を迎えた。韓国政府側はベトナムと韓国、米国間の約定書などによりベトナム人は韓国の裁判所に訴訟を提起できないと主張していたが、ソウル中央地裁は「約定書は合意に過ぎず、ベトナム国民個人である原告の大韓民国政府に対する請求権を防ぐ法的効力を持たない」と判断し、さらに政府側は、本件は犯罪行為から50年以上が経過しており時効が満了している、とも主張したが、これも「原告はこの事件訴訟の権利を行使できない長年にわたる障害理由があったと見られる」と却下した。

次のページ