「ゆるスポーツ」のアイテムたちと。人目を引くようビジュアルのかわいさにもこだわっている(写真/横関一浩)
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 世界ゆるスポーツ協会代表理事、澤田智洋。もしもハンドボールが、手にハンドソープをつけ、つるつると滑るボールを操るスポーツだったらと想像してほしい。運動の苦手な人がむしろ得意になるかもしれない。こうした「ゆるスポーツ」を作り、広めているのが澤田智洋。きっかけは息子の障害だった。社会がゆるくなれば、みんながもっと生きやすくなると、もみほぐしていく。

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 激しく体をぶつけあうラグビーや、高いジャンプからシュートを繰り出すハンドボールは、多くの人にとって「見ている分には楽しいが、自分でプレーするのは無理」な競技だろう。しかし下半身にカラフルな「イモムシ」ウェアを着て、ごろごろ床を転がってボールを運ぶ「イモムシラグビー」ならどうだろう。あるいはハンドソープを手につけて、つるつる滑るボールを操る「ハンドソープボール」なら?

 これらは「世界ゆるスポーツ協会」が生み出した競技だ。年齢や性別を問わず、また運動が苦手な人もそうでない人も、障害があってもなくても楽しめる。プレーを見た観衆から上がるのは、どちらかと言えば応援の掛け声よりも笑い声だが「それでいい」と話すのが、同協会代表理事の澤田智洋(さわだともひろ・43)。

「単なる笑顔じゃ弱い。見ている人が声を上げて笑ってくれれば、周囲の人も興味をそそられ『ちょっと見てみようか』と思うでしょう」

 実は澤田は、スポーツが大の苦手だ。そして長男(11)は目が見えない。

「耐用年数を超えて、もはや目的すら分からないルールや社会通念は、山ほどある」と澤田は言う。自分は違和感を覚えつつも、それに従って生きてきたが、今度は息子がそれに苦しめられることになりそうだ。それならルールの方をゆるめてしまえばいい! そんな思いが、ゆるスポーツの原点となった。

「社会のあらゆる場面で、人を生きづらくしているものをとにかくゆるめたい、というのが活動の根幹。僕が事例をたくさん作れば、『ゆるめていいんだ』と考える人が増え、後に続く人が出てくるでしょう」

3カ国で暮らした経験 別の国には別の常識がある

 澤田は父親の転勤で、生後3カ月で渡仏。その後1~7歳を英国で、小5から高3まではフランスと米国で過ごした。

「海外で暮らしている間は『日本人』だし、日本に帰ってきたら『帰国子女』で、ずっと社会からふわふわ浮いている感覚でした」

 日本では、おかずの詰まった弁当を学校に持参するのが「当たり前」だが、米国ではパンとリンゴでおしまい。日本の店員は商品を丁寧に扱うが、買ったものを投げつけるように渡される国もある。別の国に行くたびに、別の常識があった。

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