少年オギーをいじめたことで退学になったジュリアン(ブライス・ガイザー)に祖母サラ(ヘレン・ミレン)は昔話をはじめる。それはナチス占領下、ユダヤ人である彼女の壮絶な経験と「優しさ」についての大切な記憶だった──。大ヒット作「ワンダー 君は太陽」のもうひとつの物語「ホワイトバード はじまりのワンダー」。マーク・フォースター監督に本作の見どころを聞いた。
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「ワンダー 君は太陽」のアナザーストーリーである原作を読んでインスパイアされました。あのときのいじめっ子ジュリアンが祖母から昔話を聞き、彼の人生がどのように変わっていくのかが描かれている。いじめっ子を救済するという視点に興味を惹かれました。実は私も昔、祖母から戦争時代の話を聞かされたんです。でも当時はちゃんと聞いていなかった(笑)。それになにより若者たちのラブストーリーを描いてみたかったのです。ただし、その背景には非常に残忍な戦争やホロコーストがあります。その光と影のコントラストを意識して作りました。
大きなテーマは「優しさ」、そして「変わること」です。ヒロインのサラは最初わがままで自分のことしか考えていません。しかし自分を助けてくれたジュリアンに出会い変化していく。ジュリアンもまた変化します。足が不自由な彼は学校でも常に下を向いていましたが、しかしサラを助けたことで次第に上を向き、自信を持ち始めます。そして現代を生きるジュリアンも祖母の話を聞き、変化していく。人との出会いで人は変化し、勇気を持つことができるのです。
製作を始めたときはまだウクライナ戦争も起こっていませんでした。しかしいま中東でも戦争が起こり、世界中が変わってしまった。こういう時代にこそ優しさや人を許す気持ちがより大事だと感じています。私は「人間」というものを信じています。ナイーブだと言われるかもしれませんが、しかし人と人が向き合って、真剣に考えれば対立ではなく共存は可能だと信じているのです。いまこの時代だからこそ、優しさというもので人を変えられること、そして人を信用することの大切さを描いた本作が、多くのみなさんに伝わることを願っています。
(取材/文・中村千晶)
※AERA 2024年12月9日号