政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。
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ロシアが11月21日に発射した新型ミサイル「オレシュニク」は、速度マッハ11超え、核弾頭を六つ搭載できることが明らかになりました。すでにプーチン大統領は、このミサイルの量産を明言しています。この恐ろしい通常兵器が使われれば、これまでのミサイル迎撃や防空システムが無力化される可能性があり、その射程内のNATO諸国の安全の根幹が揺るがされます。また、そうしたミサイルと技術がロシアから北朝鮮に移転された場合、北東アジアの安全保障上の均衡が一挙に崩れます。
国際社会は平等な主権国家の上に成り立っているとされますが、「独立」と「安全」を両立させられる国は、ロシアと米国と中国だけでしょう。核保有国のフランスやイギリスですらNATOの一員でなければ、自分たちの安全は保証できないと思っています。今の日本はミドルパワーの国であり、ありえないことでしょうが、たとえ核武装をしても安全は保証できないのではないでしょうか。
つまり、米中露3カ国を除いた国々は程度の差はあれ、「独立」と「安全」のトレードオフを余儀なくされざるを得ないということです。それでも国際社会のタテマエは、主権国家の独立不羈(ふき)を謳(うた)っています。トランプ大統領になれば、そのタテマエを突き、「安全」が大事ならば、守る側の米国にもっと「みかじめ料」を払え、それが嫌で「独立」にこだわるなら、自分たちでなんとかしろ。わかりやすく単純化すれば、こんな理屈になるはずです。トランプ政権が4年間、その後もトランプチルドレンが出てくるならば、「トランプ現象」は一過性のものでは終わりません。ミドルパワーの国は同じようなミドルパワーの国と盟約を結び、新しい事態に対処していくしかありません。
その先例はヨーロッパにあります。西ドイツとフランスは、1963年にエリゼ条約を結び運命共同体の道を選んでいます。日本が組む相手は、やはり韓国でしょう。来年は国交正常化60年です。ここで日韓新時代を画するマニフェストを出し、新しい時代に備えるべきでしょう。日本にとっても韓国にとっても一国で安全は確保できない、そういう時代になったのですから。
※AERA 2024年12月9日号