「昔、加藤健一さんが何かの取材で話していたんです。俳優なら、どんな境遇に置かれても、周りを観察したほうがいい、みたいなことを。実際、加藤さんは、身内の葬儀であっても、悲しみに浸る以前に、周りがどう振る舞うかが気になってしまうらしい。この間、稽古場の近くで高杉くんと一緒にいたとき、たまたま通りがかった女の子が、高杉くんに目が釘付けになって、転びそうになったんです。まるで、ドリフのコントみたいに(笑)。だから僕は、『これを記憶して、ストックしておく。俳優ってそういう仕事なんだよ』と伝えました」
勝村さんの無名時代、蜷川さんはこうも言っていた。「とにかく人間を観察しろ」と。
「だから、銀座の交差点で、何時間でも人を見たり、動物園に行って、ゴリラや猿を見続けた。アクターズスタジオのメソッドでゴリラのしぐさを研究して役作りをした『ゴッドファーザー』のマーロン・ブランドが有名ですが、俳優にとって、生きていることは、すべて芝居につながっているんです。俳優は、暮らしの中で見つけたことを咀嚼し、体系化していくのが仕事。今僕らができることは、暮らしの中に落ちている芝居のヒントを、少しだけ若い人たちに助言することぐらいですが」
もう一つ、ハイブリッドの強みかもしれないと自負しているのが、きっちりと作品を作ろうとしない、ある種の不安定さだという。
「僕らの世代には、舞台上の空気をコントロールできる俳優が多いんです。わかりやすいのが古田(新太)、(渡辺)いっけいさん。新劇の人たちのように作品を丁寧に作り込むことではなく、その場でお客さんを巻き込むことを面白がるというか。不安定に作ったものを不安定に提出している世代なのかな。だいたい、僕らは生きざまからして不安定ですからね(笑)」
(菊地陽子、構成/長沢明)
※週刊朝日 2022年3月11日号より抜粋