「海外で付与されたものなら申告しなくても大丈夫だろうと安易に考えてしまったのが運の尽き。意図的に所得を過少に見積もったと認定されたら、重加算税が課されて追徴課税が1億円を超える可能性もあったので、自主的にすべての海外取引所の取引履歴を提出して、何とか7000万円程度におさめてもらいました。そのうち5000万円をすぐに納付し、残りは毎月50万円ずつ納税を続けています」

 このように、申告漏れを指摘されて多額の追徴課税を課される投資家が増えている。「魔界の税理士」(魔界=暗号資産投資の奥深い分野を指す)の名で暗号資産の税務に携わる村上裕一氏が話す。

「公表されている22年分までの3年間で暗号資産関連の税務調査件数は約1.4倍に増えており、申告漏れの所得金額は20年分の106億円から189億円に増加。トータルの追徴税額はほぼ倍増して64億円に達しております。3~4年分遡って税務調査が行われるケースが多いので、21年のビットコインバブルで稼いだ人は、これから調査の対象になる可能性がある。足元でビットコイン価格が急騰していることを考えても、今後、暗号資産の投資家を対象にした調査件数や申告漏れ所得金額は増え続けると考えたほうがいいでしょう」

追徴課税で破産同然

 20年には暗号資産取り引きで約2億円の利益を得ながら「120万円」と虚偽申告した男性が脱税で逮捕されている。追徴課税で破産同然の状況に追い込まれる投資家も少なくないという。

「SNS上に流れた『暗号資産同士の交換取り引きなら売却益を申告しなくていい』という誤情報を鵜呑みにして、人生を狂わされた人もいます。『エイダコイン(ADA)』という暗号資産に投資した40代のシングルマザーは一時、含み益が2億8000万円まで膨らみましたが、換金すると多額の税金を請求されると考えて別の暗号資産に乗り換えた。ところが、ある日税務調査が入って3000万円の追徴課税を課されてしまった。そのときには暗号資産バブルが終焉しており、乗り換えた暗号資産を売り払っても3000万円には届かず、新聞配達や水商売もやりながら、借金の返済を続けたと聞きました」(前出の村上氏)

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国税調査官はウォッチしている