儀式が行われる神嘉殿の南庭には、皇室の祭祀をつかさどる掌典職の職員によって吹き抜けの仮屋が設置されている。地面には荒く編んだむしろである荒薦(あらごも)と白布、水草を編んだ真薦(まこも)と蘭薦(らんごも)を重ねる。その上に、天皇の御座となる厚畳(あつだだみ)を置く。天皇の御座の両脇には菊灯が置かれ、二双の屏風で囲む。伊勢神宮の方向となる西南の方向は、空けておくという。

 午前5時半。周囲はまだ暗闇に包まれ、凍えるような寒さが続く。吹きさらしの仮屋の厳しさは、言うまでもない。

 束帯姿の天皇が、屏風をめぐらせた庭の御座に着座する。

「伊勢の神宮をはじめ天地四方の神々、ついで初代天皇とされる神武天皇御陵と明治・大正・昭和の3代の御陵を拝されます」(所功名誉教授)

 続いて皇居がある武蔵国一宮の氷川神社、京都御所がある山城国一宮の賀茂上下両社、応神天皇を祀る石清水八幡宮、三種の神器の一つとされる草薙剣を祀る熱田神宮、武神の武甕槌大神(たけみかづちのおおかみ)を祀る鹿島神宮など、皇室にゆかりのある神社を順に拝まれる。

 午前5時40分。

 四方拝の儀が終わると、宮中三殿で皇統の繁栄と五穀豊穣、国民の平安を祈る「歳旦祭の儀」が始まる。

 天皇陛下が拝礼を終えて三殿から退出すると黄丹袍(おうにのほう)を召した皇嗣の秋篠宮さまが続く。

 三殿とは、皇祖神である天照大神を祭る賢所、歴代天皇・皇族の霊魂を祭る皇霊殿、天神地祇をお祭りする神殿のこと。

 儀式が終わるころ、ようやく東の空が白み始める。

 天皇陛下の元日務めは、始まったばかりだ。
 

 宮内庁が公表する22年(令和4年)のスケジュールを見てみよう。

 9時半ごろから宮殿花の間で正月の「晴の御膳」に臨む。一説には、おせち料理の元ともいわれ、めでたい膳を神に捧げるために箸をつける儀式である。

 9時45分からは両陛下は祝賀に、続いて成年皇族方とともに「祝賀の儀」に臨む。

 鳳凰の間、松の間、竹の間、梅の間と場所を移しながら、皇族や首相、閣僚、衆参両院議長、最高裁長官、各国の駐在大使公使夫妻らのあいさつを受ける。

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