英米のロックやソウル、ブルーズを聴いているという方の多くは、そもそも歌詞の意味や背景まで追うことはないですよね。むしろサウンドを聴いているだけの人の方が圧倒的に多いでしょう。あるいは普通のロックやソウルといったタイプの歌は、バンドサウンドで作られているので、たとえば一番多く繰り返される歌詞だけ印象に残っているという場合も多いかもしれません。この本を通して、今まで好きだった歌についても、こんなことを歌っていたのかと少しでも気付いてもらえれば嬉しいです。



----その歌われているメッセージには、時代を超えて響くものがあると?



改めて歌詞を見ていると、現在の世の中で起きていることを連想するものがけっこうあるなと感じました。たとえばこの本で取り上げているビリー・ホリデイの「奇妙な果実」や、ウディ・ガスリーの「ドウ・レイ・ミー」は、いずれも30、40年代の歌ですが、そこで歌われている、(当時のアメリカで横行していた白人による黒人の)リンチ事件や、重労働を不法入国者に従事させて問題が起こると国外退去させるといった状況は、現在にも通じるところがあります。似たような事件は今も起きているんです。指摘したからと言ってすぐに変わるわけではないけれど、折に触れて指摘することで、人が気づくようにしないといけないとは思っています。



----最近の楽曲のなかでも、プロテスト・ソングは存在するかと思いますが、この22曲を選んだ基準のようなものはあるのでしょうか。



もちろんプロテスト的な内容に触れたものもありますね。近年、若い黒人に対する暴力事件が増えていますので、何か言わなければという衝動に駆られているアーティストは多いのでしょう。しかし、その中には僕も理解することのできないスラングが多用されているものもあります。この本では、文章として成り立つ歌をとりあげました。自然な抑揚で歌っていて、真似をしていれば正しい言い方が身に付くようなものですね。



----日本の音楽業界ではあまり見受けられない動きですね。



日本の音楽業界はいまだに芸能界です。そのノリは、僕が日本に来た頃と本質的に変わっていません。自ら作詞作曲してレコーディングをし、レコードを作る人もいますが、基本的に分業ですよね。そして世の中で起きていることについて触れようものなら、当然一部から反発がくる。僕なんかがちょっとした意見を言っただけで、攻撃を受けることもあるくらいですから(苦笑)。



----そういえばそんなこともありましたね。



多様な意見を冷静に言い合うという文化が、今一つ根付いていないのかもしれません。1950年代くらいの欧米では、意見を言いたい人はブルーズやフォークといった、マイノリティの音楽を通して発信していました。それが大きく発展したのは60年代。フォークであればボブ・ディラン、ポピュラー音楽であればビートルズ世代のミュージシャンたちは、そうしたそれまでマイノリティだった音楽の影響を受けたため、自身の表現の仕方も変わりました。そして彼らは世界的な成功を収めた。これにより、音楽業界も大きく様変わりしました。しかし日本ではこうした動きは見受けられなかった、少なくともメインストリームにはならなかった。



----英詞に注目することにより、音楽的なおもしろさだけでなく、一歩踏み込んだ深く広い世界が開けてきそうです。



何かの拍子に気がついて、好奇心が芽生え、興味を持てば、そこから先は個人個人が追求していくことです。しかし、まず気づかせるというところはメディアの役割でもあります。ささやかながら、この本がそのきっかけとなってくれることを願います。





プロフィール



ピーター・バラカン

Peter Barakan

1951年ロンドン生まれ。74年に来日。現在、ブロードキャスターとしてテレビ・ラジオを中心に活動。「ウィークエンド・サンシャイン」(NHK-FM)、「ジャパノロジー・プラス」(NHKワールドTV、NHK-BS1)、「Barakan Beat」(InterFM)などの司会を担当。著書に、『魂(ソウル)のゆくえ』(アルテスパブリッシング)、『ラジオのこちら側で』(岩波新書)、『ピーター・バラカン音楽日記』(集英社インターナショナル)などがある。peterbarakan.net

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