「人生にはね。いろんな色があるの。色鉛筆みたいにね」
弘之さんと未知子さん、ある日の二人のやりとりをまとめました。
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未知子:「お父さんがいない時、家で寂しいというか、話をする相手がいなくて、どうしようって……」
弘之:「おいおい。みっちゃん、それで人に電話しまくってるの。それダメだよ(笑)」
未知子:「ライン(通話)でね。『お話無理だよね?』って聞くと、『いいわよ』って。『あら嬉しい!』ってそういうふうに。だけどちょっと待っててねで、切れたりするの!」
弘之:「あ、あんまり迷惑かけちゃダメだよ、みっちゃん」
未知子:「ちょっと寂しくて」
弘之:「早く施設(を見つけてそこに入居して)に慣れて、帰りたい時に我が家とか、ちさ子の家に帰れたらいいなぁ、と思っているんだよ、お父さんは」
未知子:「妹(ちさ子)や弟のところ、自由に使っていいってそんなふうに言われてもできないよ」
弘之:「自由に使っていいんだよ、みっちゃん」
未知子:「妹の家とか、気遣うのよ。黒いワンちゃん(注:ちさ子さん宅の愛犬、ネロ)いるしね」
弘之:「我が家もワンちゃん飼っていたね。豆柴のサクラ、覚えてる?」
未知子:「うんうん、覚えてる。結局、面倒見たのって、お父さんと私よね」
弘之:「そうそう。面倒見てた、見てた。その前は柴犬のペロ。実際はほとんど僕が世話しているのに、ちさ子になつく。これ、どういうことやら」
未知子:「うんうん。面倒見ていないのに」
弘之:「…見ていない、ちさ子になつく」
未知子:「……ね」
之:「ペロは倒れてから1週間、ちさ子が帰ってくるまで頑張って生きた。かわいそうだったけど。それにしても、なんであいつなんだって(笑)。何にもしないのに」
未知子:「うん、うん」
弘之:「サクラも、最後はちさ子が駆けつけるまで生きていた」
未知子:「うん、うん」
弘之:「ちさ子の家でゴールデンレトリバー(エルモ)を飼っていた時も、うちで面倒を見ていた。赤ちゃんの時からずっと、僕が散歩に連れて行き、家内が全部世話して。さんざん面倒を見たのに、それでもエルモがなつくのは、ちさ子。あいつ、いいとこ全部もってく」
未知子:「今は我が家には犬はいないね。飼えたらと思うけど、ぬいぐるみで我慢。ぬいぐるみだったら投げられるし(笑)、ご飯の心配要らないし(笑)」
弘之:「未知子のこれからだけどね。これまで色々考えたけど、完璧にやらなくてもいいと考えられるようになったら凄く気が楽になったよ、みっちゃん。100%完璧にしなくちゃと考えるのは辛いからね。人生、自分の思い通りになんて、いかない」
未知子:「そう、そうだよ、お父さん」
弘之:「だったら、100%じゃなくてもね」
未知子:「うん。人生は色々なんだよ。人生は水戸黄門。人生楽ありゃ、苦もあるでしょ」
弘之:「みっちゃんがいいと思うことを少しでもできたらいいな、って思ってる」
未知子:「人生にはね。いろんな色があるの。色鉛筆みたいにね」
*「笑う老人生活」(幻冬舎)第三章「みっちゃんとの生活」から抜粋。