1997年に臓器移植法が成立し、国内で脳死患者からの心臓移植が可能になってから、四半世紀が過ぎた。この間、心臓移植関連のニュースでは、移植にたどり着けるかがテーマとなることが多く、移植後の生活に焦点が当たることは少なかった。移植を受けられる人自体がごく限られていたからだ。2000年代まで、国内の心臓移植実施件数は多くて年間10例程度で推移した。ただ、09年に家族の同意のみで提供できるよう法改正がなされ、関係者らの長年にわたる懸命な努力もあって、日本社会は大きく変わりつつある。23年に心臓移植を受けた人は115人で、初めて年間100人を超えた。今年も10月末までに91人が移植を受けている。ほぼ一貫して増え続けていた移植待機者は、22年後半以降減少に転じた。
ほぼ普通の生活を送る
移植後の成績も良好だ。国内で22年8月までに心臓移植を受けた675人(全年齢)の10年生存率は88.6%、15年生存率は79.6%。臓器移植法制定後最初期に移植を受けた人のなかにも、今も現役で働いている人がいる。心臓移植を受けた人が社会復帰し、長く人生を歩んでいく。それが、日本社会のなかで当たり前になってくる。
臓器移植法制定や改正などにも尽力した移植医で、千里金蘭大学学長の福嶌教偉(のりひで)さんは言う。
「心臓移植は薬や補助人工心臓で何とか心機能を維持していた人が、ほぼ普通の生活を送れるようになる医療です。私は移植後のフォローも含めれば、200人くらいの心臓移植者に関わってきました。寝たきりに近かった子が移植によって元気になって、成長して大人になる様子も何人も見ています」
移植を受けた後は免疫抑制剤を生涯飲み続ける必要があり、感染症対策が欠かせない。下痢をすると免疫抑制剤が吸収できなくなることがあるため、食中毒には厳重な注意が必要だ。ケース・バイ・ケースで人にもよるが、泳ぐこと、温泉に入ること、生ものを食べること、飲酒などを制限される場合もある。それでも生活のほとんどを、健常者と同じように送れるようになる。
「心臓を提供してくれたドナーさんへの感謝を忘れず大切にし続けることが大前提で、その観点からストップをかけることもあります。それでも運動機能はかなり回復して走ったりスポーツしたりすることもできるし、普通に働くこともできます。『移植を受けたこと』も、個性のひとつとして社会に受け入れられるようになるでしょうし、そうならなければなりません」(福嶌さん)