「この被害を表沙汰にすれば、私は絶対に生きていくことはできず、自死する他ないと決意している。大阪地検の検事正による大スキャンダルとして組織は強烈な批判を受け、検事総長以下が辞職に追い込まれ、大阪地検は仕事にならないくらいの騒ぎに巻き込まれ、組織として立ち行かなくなるので、私の命に代えてやめていただきたい。あなたも属する大阪地検のためということで、お願いする。この被害を胸にしまってもらえるなら喜んで死ぬ。ご主人にも言わないように」

 事実を認め真摯な謝罪を要求する女性に対し、元検事正が渡したとされる書面の内容である。事件を公表したら死ぬと脅し、事件を公表しなかったら喜んで死にますと言う。こんな書面を受け取った被害女性の気持ちを思うといたたまれない。さらにこういうやりとりをしている最中でも、女性は性犯罪事件を検事として担当し、その決裁を受けるために当時上司であった元検事正と接点を持たなければいけない場面もあったという。

 事件から6年である。この6年の重さを思うとあまりに胸が痛いが、被害女性が、大変な犠牲を払って声をあげた勇気を讃えたいと思う。

 一方で解せないのは、元検事正の行動だ。事件が明るみに出て、元検事正が逮捕されるまでにいたったのは、元検事正が被害女性とやりとりした内容が客観的証拠になったからに他ならない。「客観的証拠がないから不起訴にしよう」という検事も少なくない組織で、客観的証拠を自ら積みかさねた被告。事件の発覚を恐れ死をちらつかせる一方で、こんな書面を残す元検事正は、いったいどのようなつもりで記したのだろう。

 それはきっと、たとえ自分が客観的証拠になる書面を残したとしても、組織の重さをちらつかせれば女性が黙ると信じていられる立場に被告がいたということなのだろう。それこそが、男性がそれまで守られ生きてきた「組織」というものだった。女性のお尻を触ろうが、泥酔した部下をレイプしようが、客観的証拠をいくら残そうが、きっと沈黙は守られると信じられるくらいに、そこは、男性の特権が守られる男性のための組織なのだ。社会から巧妙に隠されてきたその事実こそ、検察が直視し変えていくべきものなのだろう。

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