●様相を異にした予備選挙 資質に疑問符の候補者圧勝はなぜ?
4年ごとの米国大統領選挙は、新聞・放送メディアが最も力を注ぐ国際報道の一つである。世界の命運を左右する超大国の最高指導者にどんな人物が選ばれるのか、それは世界的な関心事であるからだ。
共和、民主両党の候補者を決める予備選挙は、ドナルド・トランプ氏(共和党)とヒラリー・クリントン氏(民主党)がそれぞれ指名獲得を確実にし、大きなヤマ場の一つを越えた。あとは党大会を経て11月8日の本選挙を待つだけだ。この間のテレビ報道に接し、今回の予備選挙が過去のものとは様相を異にしているという思いを強くした。
合衆国の大統領として、世界の最有力指導者として十分な資質と能力を備えているかどうか――全米を一巡する長い戦いを通じて、候補者の一人ひとりが厳しく資質を問われ、「任に値しない」と審判されれば、容赦なく振り落されてゆく。本来、予備選挙とはそういう性格のものである。ところが共和党では、とかく過激な発言で物議を醸し、最高指導者の資質を疑問視されるトランプ候補が当初の予想を覆し他候補を圧倒した。一方の民主党も、大本命視されているクリントン元国務長官が民主社会主義者のバーニー・サンダース上院議員に苦戦を強いられ、ようやく振り切った。
この結果について、各局の北米特派員らは一様に「既成のワシントン政治に不満を抱く有権者層が増えている」と解説している。そのとおりなのだろう。だが、そんな通り一遍の分析で十分なのだろうか。私の頭の中は疑問符だらけである。たとえば、
①初めて黒人大統領の誕生が現実味を帯びてきた8年前の同じ頃、バラク・オバマ氏は「Yes, We can!」と声高に叫び、国民から大きな喝采を浴びた。あの時の熱狂ぶりはどこに行ってしまったのか?
②元大統領を夫に持ち、自身も外交手腕を発揮したクリントン候補は米国初の女性大統領に向かって突き進んでいる。それなのに、「ヒラリー旋風」が巻き起こっているようには思えない。それはなぜか?
③価値観の多様化が世界的に進むなかで、米国政治を支える2大政党制はきちんと機能しているのか?
④トランプ候補に対する支持率の高さは本物なのか? そうであるなら、それはなぜなのか?
――等々、疑問の種は尽きない。