多くの民主主義国には欠点がたくさんありますが、それでも民主主義は経済成長にとって望ましいのです。教育や子どもの健康にとっても望ましい。現代において成功した社会では、民主主義によってそれはもたらされています。そのほかの代替システムと比べると民主主義の方がはるかに優れています。しかし問題は、民主主義は世界中で後退している状態にあることです。それは2000年代のはじめくらいから起きています。
経済成長できた中央ヨーロッパ
意外に聞こえるかもしれませんが、民主主義は貧困層にとって望ましいという事実は、必ずしもすべての人が民主主義を追い求めることにはつながりません。民主主義が弱体化することから恩恵を受ける人がいますが、それは皮肉にも独裁主義的傾向があるパワフルなリーダーです。しかも実際にそれが中央ヨーロッパで起きました。ポーランド、チェコ共和国、スロバキア、ハンガリーを見ると、経済的には成功しています。多くの人が抱いていた懸念に反して、これらの国々の経済は見事に回復しました。
しかし、そのことがむしろ多くの弱点を残し、そこに付け込むのは簡単なことでした。
つまりこういうことです。
西ヨーロッパにおいて政党やメディアなど市民社会が参加する民主主義的な構造は、何世紀にもわたる長い時間をかけて進化してきたものです。一方、中央ヨーロッパにおいて民主主義という実験は、ごく最近なされたものです。ですから、多くの弱点を残しています。それはさきほど言ったように独裁主義的傾向があるリーダーが、その弱点をさらに弱体化させました。それは世界中で見られる現象です。
良い制度と経済成長の関係について説明しましょう。
重要な要素は三つあります。
まず安定を作り出す制度は、個人が投資や契約など経済取引の行為などに携わる権利を確保します。これは繁栄が共有されるようになるだけではなく、テクノロジカルな変化や生産性にとって重要です。
これは私の著書『国家はなぜ衰退するのか』(原題“Why Nations Fail”)において、「あらゆる層に開かれた経済的制度」(inclusive economic institutions)と私が呼んでいるものです。