品田 遊さん(しなだ・ゆう)/ペンネーム「ダ・ヴィンチ・恐山」でも活動。近著に『納税、のち、ヘラクレスメス のべつ考える日々』(朝日新聞出版)(撮影/写真映像部・上田泰世)
この記事の写真をすべて見る

 読書の秋、新しい発見と気づきによって広がる世界を堪能したい。識者はどんな本を読み、どう影響を受けたのか。ペンネーム「ダ・ヴィンチ・恐山」でも活動する小説家・漫画原作者の品田遊さんが振り返る。AERA 2024年11月11日号より。

【写真】「品田遊さんの『根源的な答えを得る本』」はこちら

*  *  *

 10代の頃はお金に余裕もなく、買うかどうか時間をかけて悩み、立ち読みをしたうえで本を購入することが多かったです。いまは、多少はお金の自由ができたので、信頼する人が話題にした本があったとして、そのタイトルを別の人からも聞いたとしたら、迷わず買うようにしています。これを「2回理論」と呼んでいて。“自分の周辺で起こる偶然を意図的に拡大するための仕組み”と捉えています。

『ここはすべての夜明けまえ』は、知り合いが「これはすごい」と、おすすめしてくれた本です。直接のレコメンドは「2回理論」を適用しない例外に当たるので(笑)、すぐに読みました。人工的な手術を受け、ある意味人間であることをやめてしまった主人公が「死」という限界を超え生き続ける話です。

 あらゆることが記号化され、交通整理され、滑らかになっていく世の中において「老い」や「リビドー(性衝動)」を含め、自分の肉体だけは例外的に煩わしい。そうした、どうしようもないことへの苛立ちが鮮明に描かれ感動した記憶があります。

折に触れ読み返す

『日本語の作文技術』を手にとったのは小学校高学年の頃だったと思います。パソコンを自由に使えるようになり、さまざまな個人サイトを見ていたときにある管理人がおすすめしている本の一覧の中に見つけて。図書館で借りて読んだところ、「読みやすい文章と読みにくい文章の違いはなにか」が非常に明快に区分けされ書かれていて、「良い文章を書くとは、悪い文章にしない作業のことである」と早い段階で気づくことができた。折に触れ読み返す本です。

 哲学者である永井均さんの『倫理とは何か』を読んだのは高校生のとき。自分自身の興味も「存在とは」「言語とは」といった根源的な問いにあり、永井さんが書かれる内容と見事に重なっていた。「倫理」を解体する本でありながら、倫理学の存在自体をも疑う、その元も子もない感じを含め、ぶっちゃけて書かれているところも面白いと思います。

次のページ
「コンセプト」に惹かれ本を読んでいることが多いかも