『まつ』のように『おまかせくださりませ』と申しますには
「サザエでございます」
2012年の秋の園遊会で、こう自己紹介をしたのは、アニメの「サザエさん」役を40年以上続けた大御所声優の加藤みどりさんだ。
「両陛下は、アニメなどはご覧になりますか」
加藤さんは、当時の天皇陛下と皇后美智子さまに質問をした。美智子さまは、おかしそうな表情で、「少し」。
周囲を感心させたのが当時、皇太子だった天皇陛下の言葉だ。
「一家で見ていますよ」
皇太子さまの気遣いのある声かけに、加藤さんは「大感激でした」と胸を震わせていた。
美智子さまも、NHKの大河ドラマの決め台詞を引用したことがある。2002年に放送された「利家とまつ~加賀百万石物語」だ。
同年、天皇として初の東欧訪問があった。出発を前にした会見で、記者から3番目の質問としてこう問われた。
「今後、東欧とは、芸術・文化、経済分野をふくめてどのような関係を築いていくべきか」
天皇陛下(当時)は自身の考えを述べた後、
「皇后は音楽や絵を楽しみ,また,本もよく読んでおり,この質問にお答えするのにふさわしいと思いますので,後を譲ります」
と、美智子さまにつなげた。すると美智子さまは、こう続けた。
「どういたしましょう。『まつ』のように『おまかせくださりませ』と申しますには、この3番の質問は少し難しゅうございました」
ドラマの中で松嶋菜々子さんが演じた、前田利家の妻「まつ」の台詞だ。意表をつくアドリブに、その場は和やかな雰囲気に包まれたという。