「チョッちゃん」に天皇陛下もハラハラ
座談の名手で、さまざまなエピソードが残る昭和天皇。
しかし、影響の大きさを案じ、好きな力士やテレビ番組名などの固有名詞を外で口にすることは控えていたという。
「昭和天皇は、つとめて感情を表に出さない方。ただ、ふとしたときに人間臭さをお出しになる」
そう話していたのは、高知県警本部長や警視庁副総監などを歴任した故・齊藤正治さんだ。齊藤さんが宮内庁の総務課長を務めていた時期に、昭和天皇と卜部(うらべ)亮吾侍従との間で、こんなやりとりがあったのだという。
昭和天皇は、1987年に放送されたNHKの連続テレビ小説「チョッちゃん」を楽しみに見ていた。
主人公は、俳優の黒柳徹子さんの母親をモデルにした蝶子という女の子。
北海道から上京した蝶子は、天真爛漫な性格で人からだまされたりするため、視聴者は親のような目線で見てしまう。昭和天皇も同じ気持ちだったのだろう。
ある朝、卜部侍従にこう尋ねた。
「あの娘、まただまされるんじゃないかな」
返答に困ったのが卜部侍従だ。齊藤さんにも「どうしたものか」と話があったという。
思案した結果、卜部侍従はこう答えた。
「今度は大丈夫なようです」
天皇の言葉は重い。口にしたことが思わぬ形でふくれ上がり、どこにどんな影響を及ぼすかわからない。それだけに、ふとした自然な言葉に、ほっこりさせられる。
(AERA dot.編集部・永井貴子)