その後、まるでたがが外れたかのように、イスラム教徒の過激グループは、ヒンドゥー教徒や仏教徒といった少数民族への攻撃を始めた。ヒンドゥー教徒の村や山岳地帯に多い仏教徒の村に次々に火が放たれた。公務員採用枠への抗議運動は、宗教対立に変質していってしまった。
バングラデシュ統計局の調査(2022年)によると、人口の約91%がイスラム教徒で、ヒンドゥー教徒は約8%、仏教徒は0・6%という割合になっている。たしかに以前から宗教対立はくすぶってはいたが、ハシナ政権は強権で過激派のイスラム組織を抑え込んできた。そこには2016年に起きたダッカ・レストラン襲撃人質テロ事件もかかわっている。イスラム系過激派組織が起こしたこの事件では日本人7人が犠牲になった。
宗教対立の糸を引いているのはパキスタンの急進派組織?
宗教対立の糸を引いているのはパキスタンの急進派組織だと見る向きは多い。そのパイプ役を担っているのはイスラム協会だという。この政党はもともとパキスタンでつくられた。ハシナ政権下で多くの党員が逮捕されている。今年5月には、戦争犯罪で収監されていた党首の死刑も執行されている。ハシナ首相の辞任後、逮捕された党員が続々と釈放されているともいわれる。
ダッカで繊維関係の商社を経営する仏教徒のTさん(55)はビジネスへの影響を心配する。
「アメリカはパキスタンをテロ支援国家に加えています。アメリカはバングラデシュとの関係を保とうとしているはず。今後、バングラデシュでイスラム系の急進派の勢力がのびていくと、アメリカとの関係にも亀裂が入ってくるかもしれない。そうなると、私たちのビジネスも危うくなる」
バングラデシュは雨季が明け、ヒンドゥー教徒や仏教徒の祭りやイベントがこれからつづく。悪化する治安のなかで緊張が高まっている。
(下川裕治)