シアトルで家の庭を手入れしないでいたら、地域で「住宅地の価値を下げる」と言われた。自分の勝手ではなく地域の一員として「パブリック」な在り方だ、と気づかされた(写真/山中蔵人)

 そんな「外国」との縁で、海外で仕事をしてみたくなり、就職先に木材や建材を輸入していた住友林業を選ぶ。

 シアトル市には、96年6月から出張所の次長、所長としても約4年半いた。ただ、このときは部下たちが丸太の検分へいっていたから、ロングアイランド島にはいっていない。環境保護から北米も森林伐採が規制され、代わる収益源に、米国での戸建て住宅の建設・販売を社長に提言した。離任7年後、住宅事業は開花する。

米国で住宅事業へ2年で109棟完売いま収益の「大黒柱」

『源流Again』で、戸建て住宅の分譲地も訪ねた。市東部で森林を開発し、地元の住宅会社と合弁会社をつくって手がけた。成功の象徴が、発売から2年で完売した109棟だ。

 その後、ワシントン州、テキサス州、ユタ州、東海岸ではワシントンDCとノースカロライナ州、フロリダ州へと広げ、いま供給住宅数は年間に1万棟を超える。直近の2023年12月期決算の連結売上高1兆7332億円のうち、海外の住宅や土地の売却が過半を占め、経常利益1594億円の約7割。米国の戸建て住宅の経常利益は1059億円と、グループの収益の「大黒柱」となっている。

 2010年4月に社長、2020年4月に会長となって、言い続けている言葉がある。「木化」、木の文化の意味だ。木は地球に人類が登場して以来、ともにある。その価値は時代によって変わってきたが、製材技術の進歩で、木造で高い建物もできるようになった。CO2を吸収する機能も、貴重だ。

 だから、日本にとって木を資源としてどれだけ有効に使っていくかが重要だ、と主張する。資源の乏しい国と言われるが、北海道から九州まで雨が降り、木が育つ国土を持つ。欧州の成功例にならって、日本が持つ可能性を多くの日本人に知ってもらい、活かしていきたい。

 知恵を出してもっと木を使おうと、社内に木化事業部をつくった。幼稚園や学校、老人ホームも「低層階は木でいいのではないか、我々が十分に対応できます」と提案している。もちろん、会社の独りよがりではいけない。ロングアイランド島で生まれた『源流』は、「フェアネス」の姿勢を堅持し、「木化」の深化へ向かって流れている。(ジャーナリスト・街風隆雄)

AERA 2024年11月4日号

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