日本を代表する企業や組織のトップで活躍する人たちが歩んできた道のり、ビジネスパーソンとしての「源流」を探ります。AERA2024年11月4日号では、前号に引き続き住友林業の市川晃会長が登場し、「源流」であるワシントン州シアトル市などを訪れた。
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いまの経営層には、子どものころや学生時代に何らかの形で外国に触れ、「将来は海外で仕事をしてみたい」と思った人が多い。日本企業のグローバル化は、そんな人たちが、進めた。
便利で好きなことが楽にできる大都会に住み、友だちや恋人の近くにいたいから海外への留学や外国勤務は嫌だ、という若者が増えた。国際化した日本企業は、採用や異動で、けっこう苦労している。このままなら、日本人の採用は減り、「どの国でも仕事に打ち込む」という外国人を登用する企業が、増えていくだろう。大都会にしがみつくなら、就業先が減っていくことを、覚悟する必要がある。
もったいない、とつくづく思う。海外へいってみないとできない経験、いかなかった人には無い経験。それは、市場価値の一つになるかもしれない。
企業などのトップには、それぞれの歩んだ道がある。振り返れば、その歩みの始まりが、どこかにある。忘れたことはない故郷、一つになって暮らした家族、様々なことを学んだ学校、仕事とは何かを教えてくれた最初の上司、初めて訪れた外国。それらを、ここでは『源流』と呼ぶ。
この7月、市川晃さんが初めて海外勤務へ出た米国西海岸のワシントン州シアトル市と、仕事で通ったアラスカ州ロングアイランド島を、連載の企画で一緒に訪ねた。トップに不可欠な公正さと公共性を学び、市川さんのビジネスパーソンとしての『源流』が流れ始めた地だ。
一様でない節と木目売り手と等級付けで守り通すフェアネス
フェアネス=公正さを身に付けたのは、アラスカ州南東部のロングアイランド島だ。カナダ上空からケチカンへ約2時間。1986年9月にシアトル出張所へ着任し、翌日、この便に乗った。ホテルに一泊して翌朝、丸太の供給側の人間と合流し、水上飛行機で島へ飛んだ。
島では、買い取った丸太の検分が仕事だった。木々は、同じ地域の同じ樹種でも、陽当たりや雨量などによって節の大小や木目が一様でない。それに、日本の木材業者のニーズに即して等級を付ける。等級によって買い取り価格が変わるから、供給業者の納得は欠かせない。一方が都合がいいように決めようとしたら、取引は成立しない。互いに、フェアな姿勢を貫いた。