インタビューに答えるアブラエーシュ医師。「パレスチナ人は何度も破局を生き延びてきた。現在のガザの悲劇を超え、最後は権利と正義を手にすると信じている」(写真:川上泰徳)
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 娘3人をイスラエル軍に殺されたガザ出身の医師を追った映画が公開中だ。イスラエルを憎まず、平和と共存を唱える医師の真意を聞いた。AERA 2024年11月4日号より。

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「世界は10月7日に始まったわけではないし、その日で終わったわけでもありません」

 パレスチナ人のイゼルディン・アブラエーシュ医師(69)は、そうきっぱりと言った。

 2023年のその日、ガザのイスラム組織ハマスがイスラエルへの越境攻撃をかけ、約1200人のイスラエル人が死んだ。イスラエルはその報復としてガザ攻撃を始め、1年間で4万2千人を超えるガザのパレスチナ人が死んだ。

ガザでの殺戮に怒りを

 医師の言葉は、イスラエルや同国の攻撃を擁護する人々が、10月7日の攻撃が問題の始まりで、イスラエルが一方的な被害者であるかのように主張していることに対して、1948年のイスラエル建国以来、パレスチナ人が抑圧され、排除されてきたことを指摘したものだ。

「ガザで4万2千人が殺されているというのに、いまだに10月7日の攻撃と結びつけてイスラエルの攻撃を正当化しようとするのは倫理にも道徳にも反する。尊い人命が失われていることを見て、私たちはガザでの殺戮(さつりく)そのものに怒りを示すべきです」

 アブラエーシュ医師はガザ北部にあるガザ最大のパレスチナ難民キャンプ「ジャバリア」で難民として生まれ、カイロ大学医学部に進み、産婦人科医となり、ロンドン大学や米ハーバード大学でも学んだ。パレスチナ人で初めてイスラエル国内の病院で勤務する産婦人科医となったが、08年12月末から09年1月にかけてのイスラエルによるガザ攻撃で自宅を砲撃され、娘3人と姪(めい)を失った。

 自伝『それでも、私は憎まない』(邦訳:亜紀書房)でイスラエルとパレスチナの平和と共存を呼びかける活動を始め、ノーベル平和賞に5回ノミネートされている。現在はカナダ在住。

 医師は自身を扱ったドキュメンタリー映画「私は憎まない~平和と人間の尊厳を追求するガザ出身医師の誓い~」の日本公開を機に、10月に来日した。

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