開発好明氏(撮影/谷岡康則)

開発氏自身が毎日会場に

 今回の展覧会は、過去35年に渡り大小約400回の展示を行ってきた開発氏の集大成となる約50点の作品/プロジェクトで構成されているのだが、観客が体験する参加型の作品が10以上も用意されている。

 そうかと思えば「100人先生」という作品では、日替わりで登場するユニークな分野の賢人たちの講義を聴くことができる(スケジュールは美術館の公式サイトで要確認)。“現代美術製作所先生”や“ガラス加工先生”、“ハロプロ推し先生”といった講師が、普段は知ることができないマニアックな知識を共有してくれる。

 それだけではない。ほぼ毎日、アーティストの開発氏自身が会場に現れる。大規模美術館の展示においては、異例のことである。ある時はパンダの着ぐるみを着て観客と語らい、その人のためだけに簡易な作品を制作してくれる。

 つまり、昨日とは違う新しいことが毎日起こる展覧会なのである。

 一方で、ファインアートの巨匠たちの象徴的な造形をオマージュした巨大な衣服の展示「巨大オマージュシリーズ」のような作品もある。ピカソが生涯で描いた作品数14万7800点を超えようとする「147801シリーズ」などアートの歴史を意識した作品や、発泡スチロールで作り上げられたモダンな彫刻「発泡苑」のような、いつまでも眺めていたくなるような作品も展示されている。また初期の作品の中には記事で紹介するのが躊躇されるほど前衛的なものもある。

 筆者が初めて開発氏を知ったのは、今から10年以上前の2012年である。

 2011年に東日本大震災が発生した際に、彼は作品を詰めたトラックで日本列島を横断しながら被災地支援に向かう巡回チャリティー展「デイリリー・アート・サーカス」を敢行した。

 2012年、震災で避難区域に指定されたエリアに隣接する福島県南相馬市の空き地に“政治家のためだけの休憩所”「政治家の家」(この作品は本展覧会で再現されている)を設置。全国会議員に被災地の惨状を見てもらうために招待状を発送した。“政治家の皆さん、どうぞ自分の目で被災地の様子を見てください”という強烈な政治的メッセージである。

 それに先立つ2001年には、毎年3月9日を「39(サンキュー)アートの日」とすることを企画。美術関係者に社会に対して感謝の気持ちを表現する行動を起こすよう呼びかけている。

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学芸員も「一言でコンセプトを表現するのが難しい」