思春期の悩みに伴走するには
みくさんの経験が示すように、思春期にセクシュアリティーの揺らぎを覚えたという人は少なくない。児童相談所等で若者と向き合ってきた公認心理師の鴻池友江さんは「思春期はアイデンティティーの獲得という人生の課題と向き合い、他人と自分を比べて劣等感や羞恥心を感じやすい時期です。タブーになりがちな性について大人は茶化したりせず、『あなたがおかしいのではない』と伝えられるよう、視野を広く情報を集めておけるとよいでしょう」と話す。
10代~23歳のLGBT(かもしれない人も含む)の居場所づくりをおこなう一般社団法人「にじーず」は2016年に東京・池袋に最初の拠点を作り活動を始めた。「うちの県にもほしい」という要望に応えて拠点数は仙台や新潟、京都など14カ所に増えた。それでも、団体の調査では利用者の半数以上が1時間以上かけて拠点に来るといい、今年1月にはメタバース上の居場所も加わった。この数年は中学生年代の利用が増えているという。
「学校生活ではあらゆる場面で男女を分けるので、性別違和がある子は常に『自分でない者』として扱われる経験をする。LGBTの子どもたちの4割近くが不登校だという調査結果もあります」と、トランスジェンダー当事者でもある代表の遠藤まめたさんは言う。「彼らの生活は基本的に家と学校の往復なので、似たような経験をし、気持ちを理解し合える同世代の仲間と出会いづらいのです」
遠藤さん自身、幼い頃から性別違和の葛藤を抱えていた。16歳の時に「トランスジェンダー」という言葉を知り、それを公言する人が書いたブログを読んだ。「あまりに感じていることが同じで、自分が書いたんじゃないかとさえ思った」と言う。当時は、学校の制服を着るのが嫌だと相談した教師に「若いから悩むんだ」で片付けられていた時代。理解者を見つけるのは難しかった。今ではLGBTに対する社会の認知も進み、にじーずに来る子どもたちの多くは「LGBTであることをほぼ確信している」(遠藤さん)という。
ただ、彼らも他の当事者とつながるまでは、自分だけが人と違うので、嫌なことがあっても「我慢するしかない」と思っているという。同じ境遇の同世代の仲間と出会い、「嫌だと言っていいんだ」「言い返していいんだ」と気付き、人生に対して肯定的になっていくという。
大人の理解者を増やす
子どもが自身の性別違和に悩む時、親もまた葛藤を抱えることが多い。この先わが子はどうなるのか、ありのままを受け入れられない自分はダメな親ではないか――。同じ相談者が親子に同時に向き合うことはできないため、保護者の相談は他団体につなげるが、保護者側の悩みに対応できる団体の数は限られる。「幼い時に抱く性への違和感は、成長につれて消えるかもしれないし、消えないかもしれない。それは本人にもわからない。大事なことは、いまその子が『嫌だ』『悲しい』と思う体験をできるだけ減らし、自分は大丈夫だと思える環境をつくること」だと遠藤さんは言う。
にじーずではLGBTの子どもたちを理解し支える大人の“アライ(ALLY)”を増やす活動に力を入れる。「子どもたちはだれが敵か味方かわからない。嫌なことを言う大人もたくさんいるので素直な気持ちを言えない。大人の側から話しても大丈夫だと伝えてほしい」と遠藤さん。「性に限らず、自分の物差しを他人に押し付けると苦しくなるということを、小さな頃から広く子どもたちに伝えていってほしいです」
●にじーず遠藤代表に聞いた『LGBT(かもしれないを含む)の子どもたちや保護者が相談できる団体リスト』
〇にじーず:https://24zzz-lgbt.com/
〇にじっこ:https://245family.jimdofree.com/
〇ASTA:https://asta.themedia.jp/
〇LGBTの家族と友人をつなぐ会:https://lgbt-family.or.jp/
(ライター 後藤絵里)
*AERA2024年10月21日号から